巨人の人的補償は、FAによる大型補強の裏側で、将来を期待された若手や長年チームを支えた功労者が移籍する制度として、たびたび議論を呼んできた。2013年の一岡竜司、2018年の内海哲也、長野久義に続き、2025年オフには則本昂大が楽天から巨人へ移籍し、2026年1月23日には田中千晴の楽天入りが発表された。
さらに2026年10月現在、NPB(日本野球機構)と日本プロ野球選手会は人的補償の撤廃と代替制度について協議を続けている。ドラフト指名権の譲渡や金銭補償を組み合わせる案が浮上する一方、移籍のハードルが高くなることへの懸念も残る。巨人の歴代事例、FA補償の仕組み、則本と田中の移籍後の成績、制度変更の行方を整理する。
【2026年最新】巨人人的補償は廃止される? 現状と結論

2026年10月28日時点で、FAに伴う人的補償制度の撤廃は正式決定していない。NPBと日本プロ野球選手会の間では見直しに向けた協議が続いているものの、代替案の条件や導入時期について合意が成立したわけではない。
2026年5月、NPB側は人的補償の撤廃と代替制度を検討していることを明らかにした。代替案として報じられたのが、FAで選手を獲得した球団が、旧所属球団にドラフト会議の指名権を譲渡する仕組みだ。
しかし、7月の事務折衝では、日本プロ野球選手会が提示内容に難色を示した。選手会側が重視するのは、選手がFA権を行使して移籍する際の障壁を増やさないことだ。8月には2026年オフからの導入は難しいとの見方が示された。
その後、10月9日にNPB側から代替案の再提案があり、13日には両者がオンラインで事務折衝を実施。選手会側から前向きな受け止めが示された一方、14日付の報道では、提案内容に気になる点があり、改善を求めていることも伝えられた。
つまり、2026年10月時点の状況は「廃止が決まった」ではなく、「廃止に向けた協議は続いているが、代替制度と実施時期は未確定」である。巨人の次のFA補強を考える場合も、人的補償がなくなると決めつけず、正式なルール変更を待つ必要がある。
【仕組みを解説】巨人のFA人的補償とプロテクト名簿のルール
人的補償とは、FA権を行使した選手が他球団へ移籍した際、一定の条件を満たす場合に、獲得球団が旧所属球団へ選手を差し出す補償制度だ。NPBの協約上は「選手による補償」とされ、資金力のある球団への戦力集中を抑える役割を持つ。
すべてのFA移籍で人的補償が発生するわけではない。判断の基準となるのが、移籍する選手の旧所属球団における年俸ランクである。
- Aランク:旧所属球団の日本人選手のうち、前年の年俸が上位1~3位。
- Bランク:同4~10位。
- Cランク:同11位以下。原則として人的補償・金銭補償の対象外。
ランクの判定では外国人選手を除外する。AランクとBランクの選手が移籍した場合、旧所属球団は人的補償を求めるか、金銭補償のみを選ぶかを制度上の条件に従って判断する。補償額はFA権の行使歴などによっても異なる。
初回のFA移籍における基本的な補償基準は、Aランクの場合、金銭のみなら旧年俸の80%、人的補償を伴う場合は選手1人と旧年俸の50%。Bランクの場合は、それぞれ60%、選手1人と旧年俸の40%となる。
人的補償を選ぶ場合に重要になるのが「プロテクト名簿」だ。獲得球団は、原則として守る選手28人を指定する。旧所属球団は、その名簿に含まれない選手から補償対象の選手を選ぶ。ただし、当該年度のドラフト指名選手や外国人選手、育成契約の選手など、制度上の対象外となる選手もいる。
巨人のプロテクトリストが話題になるのは、支配下選手の層が厚いことに加え、実績あるベテランと将来性のある若手を同時に守る難しさがあるからだ。プロテクト名簿そのものは通常、一般に全面公開されない。そのため、ネット上で特定の選手が「プロテクト漏れした」と断定する情報については、球団の正式発表や信頼できる報道と区別して受け止めたい。
【歴代一覧】巨人から人的補償で移籍した選手と過去事例
巨人の人的補償を振り返ると、若手の成長機会を巡る議論から、長年チームを支えた選手の移籍まで、さまざまな事例がある。スポーツ紙などがまとめた歴代記録をもとに、巨人がFAで選手を獲得した際に人的補償として送り出した主な選手を整理した。
| FA契約年 | 巨人から移籍した選手 | 移籍先 | 対応するFA加入選手 |
|---|---|---|---|
| 1995年 | 川邉忠義 | 日本ハム | 河野博文 |
| 2001年 | 平松一宏 | 中日 | 前田幸長 |
| 2005年 | 小田幸平 | 中日 | 野口茂樹 |
| 2005年 | 江藤智 | 西武 | 豊田清 |
| 2006年 | 工藤公康 | 横浜 | 門倉健 |
| 2011年 | 藤井秀悟 | 横浜 | 村田修一 |
| 2013年 | 一岡竜司 | 広島 | 大竹寛 |
| 2013年 | 脇谷亮太 | 西武 | 片岡治大 |
| 2014年 | 奥村展征 | ヤクルト | 相川亮二 |
| 2016年 | 平良拳太郎 | DeNA | 山口俊 |
| 2017年 | 高木勇人 | 西武 | 野上亮磨 |
| 2018年 | 内海哲也 | 西武 | 炭谷銀仁朗 |
| 2018年 | 長野久義 | 広島 | 丸佳浩 |
| 2020年 | 田中俊太 | DeNA | 梶谷隆幸 |
| 2024年 | 伊藤優輔 | ソフトバンク | 甲斐拓也 |
| 2025年オフ | 田中千晴 | 楽天 | 則本昂大 |
※年は原則として対応するFA契約の年。田中千晴の移籍は2026年1月に発表された。
歴代事例の中でも、特に注目されるのが一岡竜司、平良拳太郎、内海哲也、長野久義の4人だ。
一岡竜司は、人的補償で移籍した若手が新天地で大きく成長した代表例として知られる。2013年オフ、大竹寛のFA加入に伴って広島へ移籍。その後は救援陣の一角を担い、広島がリーグ3連覇を果たした時期のブルペンを支えた。移籍当時の実績だけでは、補償選手の将来的な価値を測りきれないことを示す事例だ。
平良拳太郎も、人的補償による移籍後の成長が注目された選手である。2016年オフ、山口俊の巨人加入に伴ってDeNAへ移籍した。新天地で先発として経験を積んだことから、プロテクト名簿を考える際には、現在の実績だけでなく、将来の役割まで見通す必要があると指摘されてきた。
そして2018年オフから2019年初頭にかけては、炭谷銀仁朗のFA加入に伴って内海哲也が、丸佳浩のFA加入に伴って長野久義が、それぞれ西武と広島へ移籍した。内海は通算133勝を挙げ、長野も巨人の中心打者として実績を重ねてきた選手だった。
両者の移籍は、人的補償の対象が若手に限られず、実績豊富なベテランや球団を象徴する選手にも及ぶことを改めて印象づけた。長野は2023年に巨人へ復帰しており、人的補償による移籍が選手と球団の関係の最終的な終わりを意味するわけではない。
巨人の人的補償をめぐる評価は、獲得したFA選手の活躍だけでは決まらない。移籍した選手が新天地でどれほど出場機会を得て、どのような役割を担ったか。その両方を追うことで、制度が球団編成に与えた影響が見えてくる。
【2025年オフの最新事例】則本昂大の巨人移籍と田中千晴の楽天移籍
2025年オフから2026年にかけての人的補償で、最も注目されたのが則本昂大と田中千晴の移籍だ。則本は楽天で長く先発を務めた後、2024年から主に救援へ転向。2024年には32セーブ、2025年にも16セーブを記録した実績を持つ右腕である。
則本は2025年オフに海外FA権を行使し、巨人への移籍を選択した。これを受けて楽天は、2026年1月23日、人的補償として田中千晴を獲得したと発表した。田中は国学院大から2022年ドラフト3位で巨人に入団した右腕で、2023年には一軍30試合に登板していた。
移籍後の成績については、NPB公式の2026年シーズン終了時の個人成績が比較材料になる。
- 則本昂大(巨人):18試合登板、3勝4敗、1ホールド、防御率4.72、投球回61回、奪三振43。
- 田中千晴(楽天):19試合登板、1勝2敗、1セーブ、4ホールド、防御率3.20、投球回19回2/3、奪三振26。
防御率だけを比べると、田中は3.20で則本の4.72を下回った。一方、則本は61イニングを投げ、田中の19回2/3を大きく上回る投球量を担っている。則本は先発登板も経験し、田中は主に救援として起用されているため、単純な数字の比較だけで両者の貢献度を断定するのは適切ではない。
田中にとっては、移籍によって一軍での登板機会を得て、救援投手として経験を積めたことが評価材料となる。巨人時代の2024年は一軍3試合の登板にとどまっていたが、楽天では2026年に19試合に登板した。
則本については、楽天で築いた実績を巨人でも再現できるかが焦点だった。2026年は防御率4.72という結果に終わり、期待された役割を十分に果たせたかについては厳しい評価も避けられない。ただし、先発と救援では求められる役割が異なるうえ、移籍1年目の成績だけで今後の価値を決めることもできない。
この事例は、FA選手の獲得と人的補償を単純な「勝ち負け」で判断する難しさを示している。獲得球団にとっては戦力補強の効果、旧所属球団にとっては補償選手の成長、本人にとっては出場機会と役割の変化が、それぞれ別の評価軸になる。
【制度変更の焦点】NPBと選手会が人的補償の撤廃を求める理由
人的補償の見直しが議論される背景には、戦力均衡を保つ必要性と、選手がFA権を行使しやすい環境を整える必要性の衝突がある。
現行制度では、FA選手を獲得した球団が一定の選手を失う可能性がある。球団にとっては、補強による戦力アップと、既存選手の流出リスクを同時に考えなければならない。獲得球団が人的補償を避けようとすれば、FA選手との契約そのものを慎重に判断する可能性も生じる。
日本プロ野球選手会が重視しているのは、FA権の行使や移籍が補償制度によって過度に制約されないことだ。一方、NPBや球団側には、戦力の偏りを抑えるための仕組みを維持したいという考えがある。人的補償を撤廃するだけでは、資金力や交渉力のある球団に戦力が集中する懸念が残る。
そのため、代替案として浮上したのがドラフト指名権の譲渡である。2026年5月に報じられた案では、FA選手の旧所属球団での年俸ランクに応じ、Aランクならドラフト2位、Bランクならドラフト3位の指名権を譲渡する仕組みが検討対象となった。7月には、金銭補償なども含む複数の案が議論されたと報じられている。
ただし、ドラフト指名権の譲渡にも課題がある。旧所属球団が受け取る指名権の順位が高すぎれば、FA選手を獲得する球団にとって大きな負担になる。反対に、順位が低すぎれば、戦力均衡を保つための補償として十分ではない可能性がある。
また、指名権の譲渡を受ける球団にとっては、獲得できる選手の質だけでなく、ドラフト戦略や育成方針との整合性も問題となる。選手会が求める「移籍の障害を増やさないこと」と、球団側が求める「戦力均衡」の両立が、制度改革の最大の難所だ。
10月13日の協議では、選手会側の意向を含む案として一定の前進があったとの受け止めも示されたが、翌14日付の報道では、提案内容の改善を求めていることが伝えられた。したがって、2026年10月28日現在、ドラフト指名権譲渡案が正式な新ルールとして決まったわけではない。人的補償の撤廃そのものも、最終合意には至っていない。
【プロの結論】巨人人的補償は移籍選手の成績と将来性で評価する
巨人の人的補償を評価するとき、注目すべきなのは「誰が移籍したか」という名前のインパクトだけではない。選手の年齢、ポジション、起用機会、移籍先のチーム事情、数年後の成長までを含めて考える必要がある。
一岡竜司のように、移籍先で重要な戦力へと成長する選手もいれば、実績のある選手が新天地で期待どおりの結果を残せないケースもある。則本と田中の2026年成績も、投球回や役割が異なるため、防御率だけで補償の成否を判断することはできない。
巨人のようにFAで多くの選手を獲得してきた球団では、28人のプロテクト枠に誰を入れるかが編成上の大きな判断となる。現在の一軍で活躍する選手を守るだけでなく、将来の主力候補や、チーム編成に欠かせない役割を担う選手も考慮しなければならない。
一方、人的補償を受ける球団も、単に有名な選手や実績のある選手を選べばよいわけではない。自軍の補強ポイントに合致し、出場機会を確保できる選手を選ぶことが、補償の価値を高める。
制度変更を評価する際も、人的補償がなくなることだけをメリットとみなすのは早計だ。選手が移籍しやすくなる一方、旧所属球団が失う戦力をどう補うのか、ドラフト指名権の譲渡が戦力均衡にどの程度寄与するのかを確認する必要がある。
ファンが歴代の人的補償選手を調べる際は、移籍直後の成績だけでなく、数年単位の成長、役割の変化、球団の補強目的を照らし合わせると、制度の実態をより立体的に理解できる。
【巨人人的補償】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:巨人の人的補償で移籍した歴代選手には誰がいますか?
A1:代表例として、一岡竜司、平良拳太郎、内海哲也、長野久義、田中俊太、伊藤優輔、田中千晴らがいます。1995年の川邉忠義から2026年の田中千晴まで、移籍先で活躍した選手や、実績あるベテランの移籍が議論を呼んだ事例があります。
Q2:巨人の人的補償は2026年に廃止されますか?
A2:2026年10月28日時点では、廃止は正式決定していません。NPBと日本プロ野球選手会が代替案を協議していますが、条件や実施時期について合意には至っていません。
Q3:則本昂大と田中千晴の2026年成績はどうなっていますか?
A3:NPB公式のシーズン終了時の成績では、則本は巨人で18試合、3勝4敗、防御率4.72。田中は楽天で19試合、1勝2敗、1セーブ、4ホールド、防御率3.20でした。登板の役割や投球回が異なるため、防御率だけで移籍の成否を判断することはできません。
Q4:人的補償のプロテクト名簿は公開されていますか?
A4:プロテクト名簿そのものは通常、全面公開されません。指定された28人以外から補償選手が選ばれるため、特定の選手が名簿から外れたという情報は、正式発表や信頼できる報道をもとに判断する必要があります。
Q5:人的補償の代わりにドラフト指名権が譲渡されるのですか?
A5:2026年には、Aランクならドラフト2位、Bランクなら3位相当の指名権を譲渡する案などが報じられました。ただし、2026年10月時点では正式決定していません。選手会は移籍のハードルが高くなることを懸念しており、引き続き協議が必要な状況です。
巨人の人的補償の歴史には、一岡竜司や平良拳太郎のように新天地で成長した選手、内海哲也や長野久義のように実績と知名度を備えた選手の移籍、そして2026年の則本昂大と田中千晴の新たな事例がある。FA補強の成果は、獲得した選手の活躍だけでなく、補償で移籍した選手がどのように成長したかによっても評価が変わる。
制度面では、2026年10月現在、NPBと日本プロ野球選手会が人的補償の撤廃と代替制度を協議している。ドラフト指名権の譲渡案が浮上しているものの、選手の移籍しやすさと球団間の戦力均衡をどう両立するかという課題が残る。
今後の動向を見極めるうえで重要なのは、人的補償の廃止が正式決定したか、代替案の補償内容がどう定まったか、そして新ルールがいつから適用されるかの3点だ。巨人の次のFA補強を考える際も、歴代の移籍事例と2026年の制度改革を切り離さず、選手の成績と制度の両面から判断することが欠かせない。