サッカーの試合前、対戦相手の選手たちがピッチへの入場口に並び、優勝チームを拍手で迎える。そんな光景を見たことはないでしょうか。これは「ガードオブオナー」と呼ばれるセレモニーです。勝敗を競うライバル同士が、相手の偉業を認め、敬意を示すサッカー文化の一つとして知られています。
2026年10月時点でも、ガードオブオナーはプレミアリーグやJリーグの事例を通じて、スポーツマンシップとライバル意識の関係を考えるうえで興味深いテーマです。2020年の清水エスパルスによる川崎フロンターレへの祝福、2022年のFC町田ゼルビアによるヴァンフォーレ甲府への花道、そして2025/26シーズンのプレミアリーグで見られたセレモニーを手掛かりに、その意味や由来、実施義務の有無、賛否が分かれる背景を整理します。
【意味】ガードオブオナーとは?優勝チームを拍手で迎える栄誉の花道

ガードオブオナーは、英語の「Guard of Honour」を日本語に訳すと「栄誉の儀仗」「敬意を示すための隊列」といった意味になる言葉です。サッカーでは、リーグ優勝やカップ戦制覇などの功績を挙げたチームを、対戦相手が拍手で迎え入れるセレモニーを指します。
一般的な形式では、相手チームの選手たちがピッチへの入場経路の両側に一列ずつ並び、その間を優勝チームの選手が通ります。選手たちは拍手で相手の実績をたたえ、優勝チームは祝福を受けながら入場します。ホームゲームでもアウェーゲームでも実施でき、必ずしもリーグ優勝だけが対象になるわけではありません。
大切なのは、ガードオブオナーが試合そのものではなく、試合前などに行われる儀礼的な行為だという点です。勝ち点が加算されるわけでも、試合結果に影響するわけでもありません。あくまで、競技上の対戦相手としての立場をいったん超え、相手が成し遂げた結果を認めるためのセレモニーです。
また、対象はチームに限りません。長年所属したクラブを退団する選手、現役引退を迎える選手、退任する監督などに対して、功績やキャリアをたたえる形で行われることもあります。プレミアリーグ公式サイトも、優勝チーム以外に、監督や選手個人へのガードオブオナーの事例を紹介しています。
日本語では「ガード・オブ・オナー」「ガードオブオナー」「ガード・オブ・オーナー」など表記に揺れがありますが、いずれも基本的には同じセレモニーを指しています。海外サッカーの映像で見かけた際は、単なる入場演出ではなく、相手の達成を認める意思表示として見ると、その意味が理解しやすくなります。
【由来】ガードオブオナーはいつから始まった?プレミアリーグに根付いた背景
ガードオブオナーの由来をたどる際、代表的な初期事例として紹介されるのが、1955年にイングランドで行われたセレモニーです。BBC Sportの2025年5月9日付の解説によると、マンチェスター・ユナイテッドが初のリーグ優勝を果たしたチェルシーをたたえた事例が、伝統の初期の代表例として挙げられています。
その後も、イングランドのサッカーでは優勝チームを称賛する慣習が引き継がれました。BBC Sportは、1991年にマンチェスター・ユナイテッドがアーセナルを迎えた事例や、2003年5月にエバートンが優勝決定後のマンチェスター・ユナイテッドを迎えた事例も紹介しています。2003年のケースは、プレミアリーグ時代の象徴的な先例です。
ただし、1955年の事例を、世界中のサッカーで統一的に確認された絶対的な起源と断定するのは適切ではありません。確認できるのは、少なくともイングランドでは半世紀以上前から、優勝した相手に敬意を示す慣習が存在していたということです。
この文化がプレミアリーグで広く知られるようになった背景には、優勝決定後にも公式戦が残るリーグ戦の仕組みがあります。優勝が決まってもシーズンが終わっていなければ、王者はその後の試合に臨みます。その際、対戦相手が入場時に花道を設ければ、優勝の価値をリーグ全体で認める象徴的な場面が生まれます。
スペインでは、優勝チームを迎える同種の慣習が「パシージョ」と呼ばれます。国やリーグによって名称や運用に違いはありますが、共通するのは、競争の結果として生まれた相手の功績を公に認めるという考え方です。
もっとも、慣習が定着しているからといって、すべてのクラブが同じ価値観で受け止めているわけではありません。ガードオブオナーは、相手への敬意を示す行為であると同時に、競争相手に祝福の場を提供する行為でもあります。この二つの側面が、後述する賛否につながっています。
【ルール・義務】ガードオブオナーは強制?実施しない理由も解説
ガードオブオナーについて、最も誤解されやすいのが「優勝チームには必ず花道を作らなければならない」という考え方です。実際には、プレミアリーグの公式解説が明示しているとおり、クラブに実施を義務付ける規則はありません。優勝チームへの敬意を表す、自主的なセレモニーとして位置付けられています。
サッカーの競技規則で定められている試合の進行や得点、反則などと、ガードオブオナーは性質が異なります。これを行わなかったからといって、それだけで競技規則違反になるわけではありません。実施する場合も、クラブ側の判断や試合運営上の調整によって行われます。
Jリーグの事例も同様です。2020年の清水エスパルスによる実施について、日刊スポーツは、平岡宏章監督とクラブ運営側の考えが一致し、清水側から提案された取り組みだったと報じています。2022年のFC町田ゼルビアによる実施も、天皇杯を制したヴァンフォーレ甲府をたたえるために企画されたものでした。
では、ガードオブオナーが実施されないのはなぜでしょうか。考えられる事情は複数あります。
- 優勝決定のタイミング:最終節で優勝が決まった場合、優勝後に対戦する試合が残らず、実施する機会そのものがない。
- クラブの方針:相手を祝福する儀礼を慣習として採用しないクラブもある。
- ライバル関係:歴史的な対立や優勝争いの経緯によって、相手を称えることへの心理的な抵抗が強まる場合がある。
- 試合運営上の事情:入場方法やセレモニーの進行、日程などの条件によって、実施が難しい場合もある。
- 形式への疑問:選手や監督が、形式的な祝福よりも試合で全力を尽くすことを重視する場合がある。
ここで区別したいのは、実施されなかったという事実と、その理由の推測です。花道がなかったからといって、必ずしも相手を侮辱する意図があったとは限りません。クラブが明確な説明をしていない場合、ライバル意識だけを原因と決めつけることはできません。
また、実施の義務がない以上、選手が花道を作らなかったことだけを理由に、スポーツマンシップに欠けると断定することもできません。判断するには、クラブの説明、当時の競争状況、過去の慣習などを合わせて見る必要があります。
【Jリーグの歴代事例】清水エスパルス対川崎フロンターレ、町田対甲府で何が起きた?
日本のサッカーファンにとって、ガードオブオナーを語るうえで外せないのが、清水エスパルスと川崎フロンターレ、そしてFC町田ゼルビアとヴァンフォーレ甲府の事例です。前者はJ1のリーグ王者、後者は天皇杯の優勝チームをたたえたもので、対象となるタイトルが異なる点にも注目したいところです。
2020年12月5日、清水エスパルス対川崎フロンターレ。J1第31節、IAIスタジアム日本平で行われた試合前、ホームの清水は、すでにリーグ優勝を決めていた川崎の選手たちを花道と拍手で迎えました。日刊スポーツは、Jリーグでは初の試みとして報道しています。
この取り組みは、清水側の提案によって実現しました。川崎は2020年シーズンに圧倒的な強さを見せ、リーグ新記録となる12連勝や歴代最多勝ち点などを記録。清水がその成果を称えた場面は、単なる形式的なセレモニー以上の意味を持ちました。試合自体は2-2の引き分けで、祝福と競争が別のものであることも示しています。
2022年10月19日、FC町田ゼルビア対ヴァンフォーレ甲府。こちらは、リーグ優勝ではなく、天皇杯を制したクラブへのガードオブオナーです。甲府は10月16日の天皇杯決勝でサンフレッチェ広島と対戦し、延長戦を含めて1-1の末、PK戦を5-4で制して初優勝を果たしました。そのわずか3日後、町田はホームの町田GIONスタジアムで甲府の選手たちを拍手で迎えました。
日本サッカー協会(JFA)の連載記事は、このセレモニーを2022年シーズンの印象的な場面として紹介しています。甲府は当時、J2リーグで苦しい戦いが続いていましたが、天皇杯ではJ1の強豪を破って頂点に立ちました。町田の花道は、リーグ戦の順位だけでは測れないカップ戦の価値を認める行為でもあったのです。
両チームの試合結果も興味深いものです。町田は後半85分に鄭大世のゴールで追いつきましたが、甲府は90+5分にウィリアン・リラが決勝ゴールを決め、2-1で勝利しました。セレモニーで敬意を示すことと、試合で勝利を目指すことは両立します。
この二つの事例を整理すると、次のようになります。
| 時期・対戦カード | 祝福の対象・背景 | 確認できる事実と意義 |
|---|---|---|
| 2020年12月5日 清水エスパルス対川崎フロンターレ |
J1リーグ優勝を決めた川崎 | 清水が入場時に花道を設けた。Jリーグ初の試みとして報道された。試合は2-2。 |
| 2022年10月19日 FC町田ゼルビア対ヴァンフォーレ甲府 |
天皇杯で初優勝した甲府 | 町田が選手入場時に花道を設けた。J2での初の実施として報道された。試合は甲府が2-1で勝利。 |
二つの事例に共通しているのは、相手が達成した偉業を認める一方、試合では通常どおり競い合っている点です。清水はリーグ王者の川崎を、町田は天皇杯王者の甲府を、それぞれ異なる大会の成果に対して祝福しました。ガードオブオナーは、タイトルの種類やクラブのカテゴリーを超えて実施できるセレモニーなのです。
【プレミアリーグ2026年最新】アーセナルの事例と歴代の名場面
2026年の最新事例として押さえておきたいのが、プレミアリーグ公式サイトが2026年5月24日付で紹介した、2025/26シーズンのアーセナルです。同クラブは第37節で優勝を確定させ、シーズン最終日の試合でクリスタル・パレスからガードオブオナーを受けました。
プレミアリーグ公式の解説によれば、王者がホームかアウェーかにかかわらず、このセレモニーは実施できます。また、同リーグでは実施が規則上の義務ではなく、他クラブの選手たちが同業者の功績に敬意を示す、自発的な行為であると説明されています。
歴代事例を見ると、ガードオブオナーは単に王者を祝うだけでなく、ライバル関係を映し出す場面にもなっています。
2004/05シーズンにチェルシーが初のプレミアリーグ優勝を果たした際、マンチェスター・ユナイテッドはチェルシーを迎えました。両クラブの間に強い競争意識があったこともあり、試合前の花道は、ライバルであっても相手の成果を認める象徴的な場面となりました。
2013年には、マンチェスター・ユナイテッドのロビン・ファン・ペルシーが、移籍後初めて古巣アーセナルの本拠地に戻った際にガードオブオナーを受けています。アーセナルの選手たちは拍手で迎えましたが、ホームの観客からはブーイングも起きました。プレミアリーグ公式の振り返りによると、ファン・ペルシーはその試合でPKを決め、1-1の引き分けに貢献しました。
2020年のリバプールも印象的な例です。新型コロナウイルスの影響で無観客試合が続いたシーズン、リバプールは7試合を残して優勝を決定。プレミアリーグ公式とBBC Sportは、その後の対戦相手7チームすべてがガードオブオナーを実施したと紹介しています。
さらに2025年には、リバプールがチェルシーとアーセナルから祝福を受けました。2026年のアーセナルの事例と合わせて見ると、この慣習が現在もプレミアリーグのサッカー文化の一部として続いていることが分かります。
なお、2026年の事例は2025/26シーズンの出来事です。2026/27シーズンの優勝チームを示すものではありません。シーズンの区別を明確にすることで、最新事例と歴代事例を混同せずに理解できます。
【評判・賛否】ライバルチームが花道を作らないのは失礼なのか?
ガードオブオナーは、スポーツマンシップを象徴する美しい場面として評価される一方、必ずしも全員が歓迎しているわけではありません。相手の功績を認めることを重視する立場と、ライバルに対して儀礼的な祝福を行う必要はないと考える立場が存在します。
肯定的な評価の中心にあるのは、競争と敬意を両立できる点です。試合では勝利を目指して全力で戦いながら、相手が長いシーズンを通じて積み上げた成果を認める。清水エスパルスと川崎フロンターレの事例や、町田と甲府の事例は、こうした考え方を具体的な行動で示しました。
一方、否定的な見方では、ライバルを称えることが心理的な屈辱につながるという感情や、形式だけの拍手にどれほど意味があるのかという疑問が挙げられます。とりわけ、優勝争いで敗れたクラブや、長年のライバル関係にあるクラブにとっては、相手を祝福することが簡単ではない場合もあります。
BBC Sportは、スペインのバルセロナとレアル・マドリードが互いにガードオブオナーを行わなかった事例や、2020年にマンチェスター・シティのベルナルド・シウバがリバプールを迎える際、花道には参加しながら拍手を送らなかった場面を取り上げています。こうした事例は、儀礼への参加と、心からの祝福が必ずしも一致しないことを示しています。
また、同じクラブのサポーターでも、選手の行動と観客の感情は分かれることがあります。2013年のアーセナル対マンチェスター・ユナイテッドの試合では、選手たちがファン・ペルシーらを拍手で迎える一方、ホームの観客からブーイングが起きました。選手が示す職業上の敬意と、サポーターが抱く移籍への感情は、別々に存在し得るのです。
では、ガードオブオナーを実施しなかったクラブは、スポーツマンシップに欠けているのでしょうか。答えは、実施の有無だけでは判断できない、というものです。義務ではない以上、行わないこと自体を直ちに非難する根拠にはなりません。過去の慣習、クラブの説明、当時の競争状況などを確認して、初めて背景が見えてきます。
特に注意したいのは、ライバルチームが実施しなかったという事実から、侮辱や報復の意図を自動的に読み取らないことです。実施しない理由が公表されていない場合、競争意識が関係している可能性はあっても、それだけを確定的な理由として扱うことはできません。
【プロの結論】ガードオブオナーの本質は「勝敗」と「敬意」を分けて考えること
ガードオブオナーを理解するうえで重要なのは、セレモニーを実施したかどうかだけでクラブや選手を評価しないことです。見るべきなのは、相手の成果を認めるという行為が、競技の公平性や勝利への意欲とどのように両立しているかという点です。
清水エスパルスは川崎フロンターレのリーグ優勝をたたえ、FC町田ゼルビアは天皇杯王者となったヴァンフォーレ甲府を迎えました。しかし、どちらの試合も勝敗を決める競技として行われています。相手を称えることは、勝負を諦めることでも、実力差を認めて試合前から屈服することでもありません。
この考え方は、サッカー観戦の楽しみ方にもつながります。優勝チームの記録や得点数だけでなく、対戦相手がどのようにその偉業を受け止めたかを見ることで、リーグやクラブ間の関係性が浮かび上がります。逆に、花道がなかった場合も、単純に「失礼なチーム」と決めつけるのではなく、その背景を考える余地があります。
ガードオブオナーを評価する際には、次の三つの視点が役立ちます。
- 事実を確認する:優勝がいつ決まり、どの試合で、誰が誰を迎えたのかを確認する。
- 公式な説明と背景を分ける:クラブが説明した理由と、報道やファンの間で語られる推測を混同しない。
- 儀礼と競技を分ける:セレモニーの有無と、試合で全力を尽くしたかどうかは別の問題として見る。
ガードオブオナーは、実施が義務ではないからこそ、行うクラブの意思が表れるセレモニーです。ただし、実施しない選択にも直ちに非難されるべきではない事情があり得ます。スポーツマンシップとは、決められた形式をすべてのクラブに強制することではなく、競争相手の成果を認めながら、自分たちの競争にも誠実であることだと考えられます。
【ガードオブオナー】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ガードオブオナーとは、日本語でどういう意味ですか?
A1:直訳すると「栄誉の儀仗」などの意味で、サッカーでは優勝チームや功績を挙げた選手を、対戦相手が花道と拍手で迎えるセレモニーを指します。
Q2:ガードオブオナーは実施しなければならないのですか?
A2:いいえ。少なくともプレミアリーグでは、クラブに実施を義務付ける規則はないと公式に説明されています。競技規則上の必須行為ではなく、基本的にクラブ側の判断によるものです。
Q3:Jリーグでガードオブオナーが行われた代表的な事例は?
A3:2020年12月5日の清水エスパルス対川崎フロンターレと、2022年10月19日のFC町田ゼルビア対ヴァンフォーレ甲府が代表例です。前者はJ1リーグ王者、後者は天皇杯王者への祝福でした。
Q4:ライバルチームがガードオブオナーを行わないのは、相手を嫌っているからですか?
A4:必ずしもそうとは限りません。ライバル意識が影響することはありますが、クラブの方針や慣習、試合日程など、背景はさまざまです。公式な説明がない場合、実施しない理由を一つに断定することはできません。
Q5:2026年の最新事例は何ですか?
A5:プレミアリーグ公式サイトが2026年5月24日付で紹介した、2025/26シーズンのアーセナルが挙げられます。第37節で優勝を決めたアーセナルは、シーズン最終日の試合でクリスタル・パレスからガードオブオナーを受けました。
ガードオブオナーとは、サッカーで優勝チームなどを拍手で迎える「栄誉の花道」です。イングランドでは1955年のチェルシーへの祝福が代表的な初期事例として紹介され、プレミアリーグでは現在も続く慣習となっています。
日本でも、2020年に清水エスパルスが川崎フロンターレを、2022年にはFC町田ゼルビアがヴァンフォーレ甲府を迎えました。これらの事例から分かるのは、リーグ優勝だけでなく、天皇杯のようなカップ戦の功績も称える対象になり得ること、そして花道を設けた後も試合では真剣勝負が続くということです。
2026年のプレミアリーグでは、アーセナルがクリスタル・パレスから祝福を受けた事例が確認できます。一方、ガードオブオナーは義務ではなく、実施されなかったことだけでスポーツマンシップの欠如を判断することもできません。
優勝チームをたたえる行為と、ライバルとして勝利を目指す姿勢は両立します。花道が作られたときは、その背景にある敬意に目を向ける。作られなかったときは、事実と推測を分けて考える。その視点を持てば、ガードオブオナーは単なる試合前の演出ではなく、サッカー文化の奥深さを知る手掛かりになります。