ラグビーは、走る、ぶつかる、押し合うといった高強度の運動を繰り返す競技です。夏場は発汗による脱水に加え、体内に熱が蓄積しやすく、練習中にも試合中にも熱中症が発生する危険があります。本人が疲労だと思っていても、判断力の低下や受け答えの異常が始まっている可能性があるため、選手、指導者、保護者が初期症状を理解しておくことが欠かせません。
2026年9月1日、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)は、同年8月7日にリーグワンの選手が熱中症による多臓器不全で亡くなったことを受け、全登録チームに安全対策の徹底を求める緊急通達を発出しました。WBGT31以上での活動は原則中止・延期とし、重症の熱射病が疑われる場合には、119番通報と迅速な全身冷却を行うよう求めています。
【2026年最新】ラグビーの熱中症対策が重要視される理由

日本ラグビーフットボール協会は2026年6月5日、夏季の練習および合宿について、安全対応を最優先に計画するよう各都道府県協会や加盟チームなどに通達しました。夏季の活動では、熱中症だけでなく、食中毒、感染症、落雷、脳振盪などへの対策も求められています。
さらに9月1日の緊急通達では、WBGTの原則15分間隔での測定・記録と、31以上での原則中止・延期が明示されました。暑さに関する注意喚起だけでなく、活動を続けるかどうかを数値と具体的な条件で判断する体制が必要になっています。
ラグビーの熱中症リスクを高める要因は、気温だけではありません。湿度、日射、地面や周辺からの輻射熱、風の弱さ、運動強度、個人の体調、暑さへの慣れなどが重なります。スクラムやコンタクト練習、反復ダッシュなどを行うと、運動による熱産生も増加します。
また、練習では試合よりも中断の機会が少なくなったり、選手が疲労を我慢してメニューを続けたりする場合があります。「試合ではないから安全」「普段から鍛えているから大丈夫」という判断は危険です。熱中症の予防は、選手の体力だけに頼るのではなく、活動環境と運営方法を調整することから始まります。
【症状の見分け方】初期症状と熱射病の危険なサイン
ラグビーの熱中症では、初期の不調を疲労や脱水として見過ごさないことが大切です。厚生労働省が示す主な症状には、めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り、頭痛、吐き気、倦怠感などがあります。重症化すると、意識障害、けいれん、異常な体温上昇などが現れることがあります。
特にラグビーの現場では、選手の動きや受け答えを普段と比較して観察してください。急に走れなくなった、指示を理解できない、言葉が不明瞭になった、まっすぐ歩けないといった変化は、単なる疲労として扱ってはいけません。
熱中症と熱射病の違いは、症状の重さと緊急性にあります。熱中症は暑熱環境によって体温調節機能などに不調が生じた状態の総称です。熱射病は、体温の過度な上昇に伴って脳機能などに異常が起こる、命に関わる重症型です。日本スポーツ協会(JSPO)は、受け答えの異常や意識障害を伴う熱射病では、救急要請と速やかな冷却が必要だと説明しています。
熱射病かどうかを、汗の量や皮膚の乾燥だけで判断することも避けてください。運動中の熱射病では発汗が続いていることもあります。意識や言動の異常など、危険な兆候が一つでも見られた場合には、重症の熱射病を疑って対応します。
【WBGT暑さ指数】練習・試合を中止する判断基準
WBGT(湿球黒球温度)は、気温だけでは把握できない暑熱リスクを評価するための指標です。湿度、日射や地面からの輻射熱、気温などを反映するため、ラグビーのグラウンドで活動の可否を判断する際に役立ちます。日本ラグビーフットボール協会の暑熱対応ガイドラインでは、当日の実測値を基本として、活動内容や運営方法を調整するよう示しています。
ラグビーの試合・大会運営で示されている主な対応は、次のとおりです。
| WBGTの値 | リスクの目安 | ラグビー現場での対応 |
|---|---|---|
| 25以上28未満 | 警戒が必要 | 水分補給と身体冷却の準備を行い、ハーフタイムの延長やウォーターブレイクを導入する。 |
| 28以上31未満 | 厳重な警戒が必要 | 身体冷却を積極的に行い、ウォーターブレイクの追加・延長など運営を変更する。 |
| 31以上 | 危険性が高い | 原則として試合・大会を中止または延期する。思春期前の子どもは一律で原則中止とする。 |
JRFUの2026年9月1日の緊急通達では、WBGT31以上で練習や試合を実施する場合についても、例外的に検討できる条件が示されています。医師や看護師などのメディカルスタッフが常駐し、緊急時に全身冷却できる設備を準備し、さらに活動内容や運営を安全優先で変更することが必要です。単に水や氷を用意しただけで実施できるわけではありません。
測定は原則15分間隔で記録し、数値の変化に応じて活動の可否を再評価します。気温がそれほど高くなくても、湿度や日射によってWBGTが高くなることがあります。天気予報の気温だけで判断せず、可能な限り実際に活動する場所で測定してください。
【実践できる予防法】水分補給・休憩・暑熱順化のポイント
ラグビーの熱中症予防は、練習開始前から始まります。選手の体調、睡眠、食事、疲労の程度を確認し、練習場所のWBGTを測定します。飲料、日陰や冷房のある休憩場所、氷や冷水、救急用品なども事前に準備しておきましょう。
水分補給は、喉が渇いてからまとめて飲むのではなく、練習前・練習中・練習後に分けて行います。JSPOの資料では、運動前の水分補給や、暑い環境では15~20分ごとに飲水休憩を取ることが推奨されています。運動量や発汗量に応じて、少量ずつこまめに飲める環境を整えてください。
発汗が多いときは、水分だけでなく塩分も失われます。長時間の練習や大量に汗をかく活動では、スポーツドリンクなどを活用して水分と電解質を補給します。飲む量には個人差があるため、運動前後の体重や発汗量も参考にし、脱水を防ぐ計画を立てることが大切です。水分補給の機会は、試合の進行や練習メニューの都合よりも選手の安全を優先して確保します。
休憩中は、日陰や冷房のある場所に移動し、身体を冷やす時間を設けます。必要に応じて冷たいタオルや冷水などを使い、練習の強度や時間を調整してください。体調不良を訴えた選手には練習を中断させ、症状が改善しない場合は医療機関への受診や救急対応につなげます。
もう一つ重要なのが暑熱順化です。暑熱順化とは、段階的に暑さに身体を慣らしていくことを指します。暑くなった直後や合宿初日、休養などで暑さにさらされない期間が続いた後は、急に練習量を増やさず、軽く短い運動から始めて徐々に負荷を上げます。環境省の資料では、個人差はあるものの、暑熱順化には数日から2週間程度かかるとされています。
暑熱順化は、暑さに強くなれば熱中症にならないという意味ではありません。慣れた選手であっても、睡眠不足、体調不良、強い日射、高湿度、過度な運動負荷が重なれば危険です。暑さへの適応と、当日の活動可否判断は別々に考える必要があります。
【応急処置と救急対応】熱中症が疑われたら何をすべきか
熱中症の疑いがある場合は、プレーを直ちに中止し、涼しい場所へ移動させます。衣服を緩め、身体を冷やし、意識や呼吸、受け答えの状態を確認してください。自力で水分を飲めない、意識がない、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんがあるなどの場合は、直ちに119番通報が必要です。
重症の熱射病が疑われる場合は、救急車を呼ぶだけでなく、到着までの間に積極的な全身冷却を開始が必要です。JRFUは氷水浴(CWI)などを用いて速やかに身体を冷やすよう求めています。JSPOも、氷水浴を有効な冷却方法として挙げ、設備がない場合には水道水を全身にかける方法や、冷水で濡らしたタオルを全身に当てて交換する方法などを紹介しています。
現場では、次の手順を基本にしてください。
- 活動を止める:選手をプレーから離し、涼しい場所へ移動させる。
- 緊急性を判断する:意識、受け答え、歩行、呼吸などを確認する。異常があれば119番通報する。
- 身体を冷やす:衣服を緩め、可能な方法で全身を速やかに冷却する。
- 飲水の可否を確認する:意識がはっきりしていて、自力で安全に飲める場合に限って水分補給を行う。意識障害がある人に無理に飲ませない。
- 経過を見守る:症状が改善しない場合や水分を取れない場合は医療機関での対応につなげる。意識障害などの重症サインがあれば、改善を待たずに救急対応する。
熱射病が疑われる場合は、冷却を救急車の到着後まで先送りにしないことが大切です。一方、氷水浴などの全身冷却は、安全に実施できる設備と対応者を確保して行います。現場で冷却方法に迷う場合も、救急要請を遅らせず、通信指令員や救急隊の指示に従ってください。
【子どもの選手と指導者へ】夏場の練習を安全に管理する方法
子どもは発育段階によって体温調節機能などが成人と異なり、本人が不調をうまく説明できないこともあります。日本スポーツ協会は、ジュニア期のトレーニングでは余力を残した指導と、体調に応じた負荷の調整を重視しています。ラグビーの指導者や保護者は、選手が「大丈夫」と答えたことだけで安全と判断せず、顔色、動き、発汗、返答なども観察してください。
安全管理では、活動前・活動中・活動後の体調確認を習慣化することが有効です。練習を休むことや、途中で離脱することに対して、選手が不利益や叱責を心配しない環境も必要です。体調不良を申告しやすくすることは、熱中症の早期発見につながります。
指導者や大会運営者は、緊急時対応計画(EAP)を作成し、救急車の進入経路、通報担当者、救護担当者、冷却設備の設置場所などを事前に決めておきます。JRFUも2026年夏季の練習・合宿に向けて、緊急時対応計画の作成や安全対策資料の活用を呼びかけています。
保護者が確認したいのは、単に「水分補給をしているか」だけではありません。WBGTを測定しているか、中止基準が明確か、十分な休憩が確保されているか、異常時に救急要請と冷却を実施できるかという点も重要です。安全管理の仕組みが整っているチームほど、個人の我慢や経験に依存しない判断ができます。
【プロの結論】熱中症対策の実効性を左右するのは、選手が頑張りすぎないことだけではなく、指導者や運営側が危険な条件で活動を止められることです。WBGTの測定、休憩と水分補給、暑熱順化、緊急時の全身冷却を一連の安全管理として組み合わせる必要があります。ラグビーの競技力を高めるためにも、練習を中止する判断を失敗や弱さと捉えず、選手の生命と健康を守るための責任ある判断として共有することが大切です。
【ラグビー熱中症】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ラグビーの練習中、どんな症状が出たら熱中症を疑うべきですか?
A1:めまい、立ちくらみ、頭痛、吐き気、筋肉のけいれん、強い倦怠感などに注意してください。受け答えがおかしい、言葉が不明瞭、まっすぐ歩けない、意識がないといった症状は重症の熱射病を疑うサインです。直ちに活動を止め、必要な場合は119番通報と冷却を行います。
Q2:WBGTが31以上なら、ラグビーの練習や試合は必ず中止ですか?
A2:JRFUの2026年9月1日の緊急通達では、WBGT31以上の場合、練習や試合などは原則として中止または延期です。試合・大会については、医療スタッフの常駐、全身冷却設備、運営上の特別な変更などの条件をすべて満たす場合に限り、例外的に実施を検討できるとしています。思春期前の子どもは、原則中止とされています。
Q3:熱中症が疑われる選手には、まず水を飲ませればよいですか?
A3:水分補給だけでは不十分です。まず涼しい場所へ移動させて身体を冷やし、意識や受け答えを確認します。自力で飲めない、意識がおかしい、けいれんがある場合は、無理に飲ませず119番通報してください。重症の熱射病が疑われるときは、救急車の到着を待つ間も全身冷却を開始が必要です。
ラグビーの熱中症は、初期症状を見逃さないこと、暑さに応じて練習や試合の負荷を調整すること、発症時に迅速な救急対応と冷却を行うことによって、リスクを減らせます。水分補給や休憩は欠かせませんが、それだけで安全が保証されるわけではありません。
2026年のJRFUの通達が示しているのは、WBGTの測定と活動中止の判断、緊急時の冷却体制をチーム全体で整える必要性です。選手、指導者、保護者、大会運営者が共通の基準を持ち、体調不良を申告しやすい環境をつくることが、事故を防ぐ第一歩になります。
暑さの中で無理をさせないこと、異常があればすぐにプレーを止めること、重症が疑われれば119番通報と冷却を急ぐこと。この3点を徹底し、選手の命と健康を最優先にしたラグビーの練習・試合運営を実践してください。