スイスの夏を彩る世界有数の映画祭「ロカルノ国際映画祭」。第79回となる2026年の映画祭は、8月5日から15日まで開催され、最高賞の金豹賞(ゴールデン・レパード)は、ルーマニアのフロリン・シェルバン監督による『You Don’t Belong Here』に決定した。独立系映画や作家性の強い作品を重視する同映画祭は、世界の映画業界が次代の才能や新しい映像表現を見いだす場として知られている。
2026年は、ホン・サンス監督の『Nowhere to Lay My Eyes』が監督賞などを受賞し、キム・ミニも演技賞に輝いた。ピアッツァ・グランデの巨大スクリーンで楽しむ野外上映から、国際コンペティションで競われる意欲作まで、ロカルノには大作中心の映画祭とは異なる魅力がある。最新の受賞結果、歴代の金豹賞、注目作品、チケット料金、映画祭の歴史と評判を整理する。
【2026年最新】第79回は8月5〜15日開催、金豹賞は『You Don’t Belong Here』に決定

第79回ロカルノ国際映画祭は、スイス南部ティチーノ州のロカルノで2026年8月5日に開幕し、15日に閉幕した。映画祭の公式発表を伝えた映画業界メディアのScreen DailyやCineuropaによると、国際コンペティションの最高賞である金豹賞を受賞したのは、フロリン・シェルバン監督の『You Don’t Belong Here』だ。
本作は、ルーマニアを舞台に、息子を一人で育ててきた医師と、父親の知らない顔を持つ10代の息子との関係を描く。息子が殺人事件への関与を疑われたことをきっかけに、父親が築いてきた日常と信頼が揺らいでいく物語だ。家庭内の世代間対立にとどまらず、地域社会の緊張や偏見、他者を理解することの難しさにも切り込んでいる。
審査員は、脚本の力強さ、独自の映像表現、映画言語を自在に操る技量を評価した。金豹賞には賞金7万5000スイスフランが設定され、監督とプロデューサーが分け合う。受賞は作品への評価だけでなく、監督や制作陣が国際的な配給・上映機会を広げるうえでも大きな意味を持つ。
シェルバン監督は、2010年の長編デビュー作『If I Want to Whistle, I Whistle』でベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した経歴を持つ。『You Don’t Belong Here』は、長編映画の監督作として約8年ぶりの作品にあたる。今回の受賞は、すでに評価を受けていた監督が、時間をかけて取り組んだ新作で再び国際的な注目を集めた事例でもある。
【受賞結果一覧】ホン・サンスとキム・ミニも主要賞を獲得
2026年の受賞結果で見逃せないのは、金豹賞を獲得したルーマニア映画だけでなく、韓国映画やブラジル映画なども主要賞に名を連ねた点だ。国際コンペティションの結果には、映画祭が重視する作家性と、作品ごとに異なる物語のアプローチが表れている。
韓国のホン・サンス監督による『Nowhere to Lay My Eyes』は監督賞を受賞。主演のキム・ミニは演技賞に輝いた。また、同作は独立した審査団が選ぶエキュメニカル審査員賞も獲得し、主要な評価軸で存在感を示した。
同作は、10年前に別れた母親を探すため、韓国・済州島へ向かう女性の物語。ホン・サンス監督にとって35本目の長編映画であり、ロカルノ国際映画祭との関わりも深い。監督は2013年に『Our Sunhi』で監督賞、2015年には『Right Now, Wrong Then』で金豹賞を受賞している。キム・ミニも2024年にホン監督作『By the Stream』で演技賞を受賞しており、今回が同映画祭での2度目の演技賞となった。
このほか、ブラジルのマテウス・ファリアス、エノック・カルヴァーリョ両監督による『The Riverbank』が審査員特別賞を受賞。イタリアのジョヴァンニ・トルトリーチ監督作『Ketticè』に出演したモニカ・ベルッチも演技賞を受賞し、キム・ミニと並んで評価された。
現在の同映画祭では、性別で分けない「Best Performance」という演技賞が採用されている。キム・ミニとモニカ・ベルッチの受賞は、異なる作品での演技が同じカテゴリーで評価されたものだ。
2026年の主要な受賞結果を整理すると、次のようになる。
- 金豹賞:『You Don’t Belong Here』/フロリン・シェルバン監督
- 審査員特別賞:『The Riverbank』/マテウス・ファリアス、エノック・カルヴァーリョ監督
- 監督賞:『Nowhere to Lay My Eyes』/ホン・サンス監督
- 演技賞:キム・ミニ(『Nowhere to Lay My Eyes』)、モニカ・ベルッチ(『Ketticè』)
- エキュメニカル審査員賞:『Nowhere to Lay My Eyes』
- 観客賞:『Frank & Louis』/ペトラ・フォルペ監督
- 現在の映画作家部門の金豹賞:『The Illusion of an Everlasting Summer』/アレッサンドラ・サンギネッティ監督。同作は新人監督を対象とするSwatch First Feature Awardも受賞した。
なお、金豹賞と、監督賞や演技賞、観客賞などは同じ賞の別名ではない。それぞれ審査対象や選考の仕組みが異なるため、受賞結果を見る際は賞のカテゴリーを分けて理解したい。
【歴代受賞作】金豹賞の変遷から見えるロカルノの映画選び
ロカルノ国際映画祭は1946年に始まり、長い歴史を通じて国際的な作家映画や実験的な映像表現を紹介してきた。最高賞の金豹賞は、国際コンペティションに参加する作品のなかから選ばれる。受賞作の顔ぶれを振り返ると、特定の国やジャンルに固定されず、独自の視点を持つ映画が評価されてきたことが分かる。
以下は、近年を中心にした主な金豹賞の受賞作だ。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で通常の競争形式とは異なる開催となったため、通常年と同列には扱っていない。
| 開催年 | 金豹賞受賞作 | 監督・国 | 注目ポイント |
|---|---|---|---|
| 2026年 | You Don’t Belong Here | フロリン・シェルバン/ルーマニア | 父と息子の対立を通じ、社会の緊張や偏見を描く。 |
| 2025年 | Two Seasons, Two Strangers(『旅と日々』) | 三宅唱/日本 | 日本映画が最高賞を受賞し、国際的な注目を集めた。 |
| 2024年 | Toxic(Akiplėša) | サウレ・ブリウヴァイテ/リトアニア | 若者の身体や社会的な圧力を扱った作品。 |
| 2023年 | Critical Zone | アリ・アフマドザデ/イラン | 現代社会を独自の視点で捉えた作品。 |
| 2022年 | Rule 34 | ジュリア・ムラト/ブラジル | 性や権力、個人の選択をめぐる作品。 |
| 2021年 | Vengeance Is Mine, All Others Pay Cash | エドウィン/インドネシア | ジャンル映画の要素と社会的な視点を組み合わせた。 |
| 2020年 | 通常の金豹賞選考を実施せず | 新型コロナ禍の特別編成 | 通常年とは異なる開催形式となった。 |
| 2019年 | Vitalina Varela | ペドロ・コスタ/ポルトガル | 独自の映像美と人物描写が特徴。 |
| 2018年 | A Land Imagined | ヨー・シュウホア/シンガポール | 移民や都市、記憶をめぐる物語。 |
| 2017年 | Mrs. Fang | ワン・ビン/中国 | ドキュメンタリー表現の可能性を示した。 |
| 2016年 | Godless | ラリツァ・ペトロヴァ/ブルガリア | 社会の周縁に生きる人々を見つめた作品。 |
| 2015年 | Right Now, Wrong Then | ホン・サンス/韓国 | 同じ出来事の反復を通じ、人間関係の揺らぎを描いた。 |
この一覧から読み取れるのは、ロカルノが大規模な商業作品の話題性だけで受賞作を選んでいるわけではないことだ。人物の内面を長い時間をかけて見つめる映画、社会の構造を独特の形式で描く映画、既存の物語の枠組みを揺さぶる映画などが、時代や地域を超えて評価されている。
2025年に三宅唱監督の『旅と日々』が金豹賞を受賞し、翌2026年にはルーマニア映画が最高賞を獲得したことも、同映画祭の国際的な幅広さを示す。歴代受賞作を選んで鑑賞すれば、単に話題作を追うだけでは見えてこない、現代映画の表現の変化をたどれる。
【注目作品】『You Don’t Belong Here』と『Nowhere to Lay My Eyes』の見どころ
2026年の受賞作をこれから鑑賞するなら、まず注目したいのが金豹賞受賞作『You Don’t Belong Here』だ。主人公の医師マリウスは、妻を亡くした後、息子イオアンを一人で育ててきた。ところが、息子が夜間に仲間と行動し、警察から殺人事件への関与を疑われたことで、父親は息子について知らなかった一面と向き合うことになる。
この作品の特徴は、事件の謎を解くことだけに重点を置いていない点にある。父親の社会的な立場や自信と、息子の行動や内面との落差を通じて、親子の間にある理解の断絶を浮かび上がらせる。加えて、地域社会の偏見や緊張が物語に影を落とす。上映情報では154分の長編として紹介されており、じっくりと人物の心理や社会背景を追いたい観客に向く作品だ。
一方、ホン・サンス監督の『Nowhere to Lay My Eyes』は、家族の再会を出発点に、人と人との距離や、過去の時間が現在の関係に与える影響を描く。主演のキム・ミニが演じるサンヒは、10年間会っていなかった母親を探して済州島へ向かう。登場人物の会話や、何気ないやり取りの積み重ねから関係性を浮かび上がらせる作風は、ホン監督の映画に通じる特徴だ。
この2作品は、物語の形式も視点も異なる。『You Don’t Belong Here』は父と息子の対立を通して社会の不安や偏見を描き、『Nowhere to Lay My Eyes』は家族の再会を通じて、他者を理解することの難しさを見つめる。どちらも、派手な展開だけではなく、人間関係の奥にあるものを映画表現で掘り下げている。
そのほか、ブラジル映画『The Riverbank』や、アレッサンドラ・サンギネッティ監督の『The Illusion of an Everlasting Summer』も、2026年の受賞結果からたどれる注目作だ。国際コンペティションの受賞作だけでなく、映画作家部門の作品にも目を向けることで、新しい監督や異なる映画文化に出会う機会が広がる。
【映画祭の特徴】ピアッツァ・グランデの野外上映と作家映画の魅力
ロカルノ国際映画祭を象徴する場所が、街の中心部にあるピアッツァ・グランデ(Piazza Grande)だ。広場に巨大スクリーンを設置し、屋外で映画を上映するスタイルは、映画祭の代表的な見どころとして定着している。夏の夜、街の広場に観客が集まり、同じ映像を大勢で鑑賞する体験は、映画館の座席で作品と向き合うのとは違う魅力を持つ。
ただし、ロカルノの特徴は野外上映だけではない。国際コンペティションでは、世界各地の監督による新作が最高賞を競う。加えて、未来の映画表現を担う作家を紹介する「映画作家部門(Filmmakers of the Present)」や、若手の短編・中編作品を扱う「Pardi di Domani」など、複数の部門が設けられている。
こうした構成によって、すでに評価を確立した監督の新作と、まだ広く知られていない作家の作品を同じ映画祭のなかで発見できる。映画祭の公式資料や映画専門メディアの報道でも、ロカルノは独立系映画や作家性を重視する場として紹介されている。
カンヌ国際映画祭やヴェネツィア国際映画祭と同じく、ロカルノも国際的な映画祭の一つだが、評価の基準を大作の規模やスターの知名度だけに置いていない点が大きな特徴だ。既存の商業的な枠組みから距離を取り、形式やテーマに挑戦する作品を見つけたい人にとって、注目すべき映画祭となっている。
【チケット・料金】観覧方法と参加前に確認したいポイント
ロカルノ国際映画祭のチケットは、上映会場や作品、上映形式によって扱いが異なる。ピアッツァ・グランデの野外上映を楽しむ場合も、屋内会場で国際コンペティション作品を鑑賞する場合も、希望する上映回の販売条件を確認することが基本となる。
2026年の開催案内に掲載された料金例では、フェスティバルパスが350スイスフラン、学生向けフェスティバルパスが110スイスフラン、シニア向けパスが250スイスフラン、1日パスが55スイスフラン、学生向け1日パスが30スイスフランとされていた。これらはパスの料金例であり、すべての上映回に共通する単独チケットの価格を示すものではない。
2026年の開催はすでに終了しているため、これから訪問を計画する人は、次回開催の公式日程とチケット販売条件を改めて確認したい。特に、次回の開催日、パスの対象範囲、個別上映の予約方法、学生・シニア向けの条件は、年度によって変更される可能性がある。
現地で映画祭を楽しむなら、次の3点を事前に整理すると計画を立てやすい。
- 見たい作品を先に決める:金豹賞候補や注目監督の作品など、優先順位をつけて上映スケジュールを確認する。
- 会場間の移動を考える:ピアッツァ・グランデの野外上映だけでなく、屋内会場での上映も組み合わせる場合は移動時間を見込む。
- パスと個別チケットを比較する:鑑賞予定の本数や上映時間に応じて、1日パスや複数日パスなどの条件を確認する。
映画祭の醍醐味は、受賞作だけを追いかけることではない。限られた滞在時間を有効に使うには、コンペティション作品、若手監督の作品、野外上映のどれを重視するかを先に決めておくとよい。
【歴史と評判】ロカルノ国際映画祭が世界の映画界で注目される理由
ロカルノ国際映画祭は1946年に創設された。第二次世界大戦後のヨーロッパで始まった映画祭の一つであり、長年にわたって多様な映画文化を紹介する役割を担ってきた。歴史の長さだけでなく、既成の映画表現にとらわれない作品を国際的な舞台に送り出してきたことが、現在の評価につながっている。
金豹賞の受賞は、必ずしも大規模な商業配給や世界的な興行成績を約束するものではない。一方で、映画専門メディアや映画関係者が作品を知るきっかけとなり、配給会社や他の映画祭から関心を集める契機になる。2026年の『You Don’t Belong Here』が示すように、受賞を機に監督のキャリアや作品の国際的な認知が再び注目されるケースもある。
また、ロカルノは一つの国の映画だけに焦点を当てるのではなく、ルーマニア、韓国、ブラジル、日本など、異なる地域の映画を同じ場で評価する。2025年の三宅唱監督作の金豹賞受賞と、2026年のシェルバン監督作の受賞を並べてみると、映画祭が国籍よりも作品固有の表現を重視していることがうかがえる。
ただし、映画祭で評価された作品が、すべての観客にとって見やすいとは限らない。物語の展開がゆっくりした作品や、明快な結末を示さない作品もある。映画祭の評判だけで鑑賞を決めるより、監督の過去作、作品のテーマ、上映時間、映像表現の特徴を確認したうえで選ぶことが大切だ。
ロカルノ国際映画祭は、映画の新しい可能性を探す人に向いている。スターの出演や娯楽性を最優先する人にとっては、作品選びに時間がかかることもあるだろう。しかし、普段の劇場公開作品だけでは出会いにくい映画や、まだ広く知られていない監督を探したい人には、受賞結果や上映部門を手がかりに新しい作品を発見できる場となる。
【ロカルノ国際映画祭】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ロカルノ国際映画祭2026はいつ開催されましたか?
A1:第79回は2026年8月5日から15日まで、スイス南部のロカルノで開催されました。現在は閉幕しており、次回の日程は今後の公式発表を確認する必要があります。
Q2:2026年の金豹賞を受賞した映画は何ですか?
A2:ルーマニアのフロリン・シェルバン監督による『You Don’t Belong Here』です。父親と10代の息子の対立を中心に、社会の緊張や偏見を描いた長編映画です。
Q3:ホン・サンス監督とキム・ミニは何を受賞しましたか?
A3:ホン・サンス監督は『Nowhere to Lay My Eyes』で監督賞とエキュメニカル審査員賞を受賞しました。主演のキム・ミニも同作で演技賞を受賞しています。
Q4:ロカルノ国際映画祭の歴代金豹賞にはどんな作品がありますか?
A4:2025年は三宅唱監督の『旅と日々』、2024年は『Toxic』、2023年は『Critical Zone』、2015年はホン・サンス監督の『Right Now, Wrong Then』が受賞しています。国や作風の異なる映画が選ばれている点が特徴です。
Q5:ロカルノ国際映画祭のチケット料金はいくらですか?
A5:2026年の開催案内に掲載された料金例では、フェスティバルパスが350スイスフラン、1日パスが55スイスフランでした。学生やシニア向けの料金もありましたが、次回の料金や販売条件は年度ごとの公式案内で確認してください。
Q6:ロカルノ国際映画祭の特徴は何ですか?
A6:ピアッツァ・グランデで行われる大規模な野外上映と、独立系映画や作家性の強い作品を重視するコンペティションが大きな特徴です。若手監督の作品や実験的な映像表現に触れられる点も、映画ファンから支持されています。
2026年のロカルノ国際映画祭は、フロリン・シェルバン監督の『You Don’t Belong Here』が金豹賞を獲得し、ホン・サンス監督とキム・ミニも主要賞を受賞する結果となった。ルーマニア映画、韓国映画、ブラジル映画などが並んだ受賞結果は、同映画祭が幅広い映画文化と独自の映像表現を評価していることを示している。
歴代の金豹賞を振り返ると、三宅唱監督の『旅と日々』をはじめ、国際的な注目を集めた作品が並ぶ。受賞作の鑑賞から始めるのもよいが、映画祭の魅力を深く知るには、監督賞や演技賞、映画作家部門の作品まで視野を広げたい。
作品選びで迷ったら、社会的なテーマや人物の葛藤をじっくり見たい人は『You Don’t Belong Here』、会話や人間関係の機微に関心がある人は『Nowhere to Lay My Eyes』から入るとよい。加えて、歴代受賞作を年代順に見比べれば、映画表現や社会へのまなざしがどのように変化してきたのかも読み取れる。
ロカルノ国際映画祭の価値は、単に賞の結果を知らせることではなく、まだ知られていない映画や監督と観客をつなぐ点にある。2026年の受賞作を入口に、過去の金豹賞や各部門の注目作へと鑑賞の幅を広げることが、映画祭をより深く楽しむための確かな方法だ。