近代五種は、フェンシング、水泳、オブスタクル、射撃、ランニングを通じて、選手の身体能力と判断力、精神的な強さを競うオリンピック競技です。1912年のストックホルム大会で採用されて以来、時代に合わせて競技形式を変えながら発展してきました。2024年パリ五輪では、日本の佐藤大宗選手が男子個人で銀メダルを獲得し、日本の近代五種史に新たな記録を刻みました。
2026年現在、競技は大きな転換期を迎えています。長年採用されてきた馬術に代わり、障害物を攻略するオブスタクルが導入され、2028年ロサンゼルス五輪では新しい形式で実施される予定です。加えて、2026年の国際大会では水泳が200mから100m自由形へ短縮されるなど、得点方式や競技の進め方にも変更が加わっています。ルール、得点の仕組み、馬術廃止の背景、日本代表の最新動向まで整理します。
【近代五種とは】5種目を一体で競う総合力のオリンピック競技

近代五種は、英語でModern Pentathlonと呼ばれる複合競技です。国際競技団体は国際近代五種連合(UIPM)で、日本国内では公益社団法人日本近代五種協会が競技の普及や代表選手の強化などを担っています。
最大の特徴は、異なる競技で必要とされる技術を一人の選手が身につけなければならないことです。瞬間的な判断が問われるフェンシング、泳力、障害物を越える運動能力、走力、そして心拍数が上がった状態でも正確に撃つ射撃。それぞれの得意分野だけで勝ち切ることは難しく、種目間のバランスが最終順位を左右します。
2026年の国際大会で採用されている基本構成は、フェンシング、オブスタクル、水泳、レーザーランの4イベントです。レーザーランは射撃とランニングを組み合わせたイベントであり、これを別々に数えると5種目になります。
近代五種の5種目と、それぞれの見どころ
- フェンシング:相手との駆け引き、反応速度、攻守の切り替えが勝負を分ける。
- オブスタクル:障害物を素早く攻略する握力、体幹、バランス感覚、瞬発力が求められる。
- 水泳:短距離の自由形で泳力とスピードを競う。
- 射撃:レーザーピストルで標的を狙い、緊張状態でも正確に照準を合わせる。
- ランニング:走力だけでなく、射撃を挟んだペース配分や疲労への対応が重要になる。
競技の理念は、単一の能力に優れた選手ではなく、複数の能力を高い水準で発揮できる選手を見いだすことにあります。特定の種目でリードしても、後半のレーザーランで逆転される可能性があるため、最後まで順位が動きやすい競技です。
【ルールと得点方式】2026年に変わった水泳・レーザーランの仕組み
近代五種のルールを理解するうえで重要なのは、各種目の成績がポイントに換算され、最後のレーザーランのスタート順やスタート時刻に反映される点です。単純に5種目のタイムを合計する競技ではありません。
UIPMが公表した2026年のワールドカップ関連資料では、競技はフェンシング、オブスタクル、水泳、レーザーランの順に進みます。各種目の得点基準は異なり、フェンシングは対戦結果、オブスタクルは障害物競走の成績、水泳とレーザーランは主にタイムを基準としてポイント化されます。
2026年の主な競技ルールと得点の目安
- フェンシング:短時間の対戦を通じて得点を競う。2026年のUIPMの大会解説では、1分間の対戦を用いた形式が紹介され、フェンシングの基準得点は250ポイントとされている。
- オブスタクル:約70mのコースに設置された8つの障害物を攻略する。選手同士の直接対決形式が採用され、走破タイムなどに基づいて得点が決まる。
- 水泳:2026年から国際大会の新形式では200m自由形に代わり100m自由形を採用。1分10秒を250ポイントの基準とし、タイムが0.2秒速い、または遅いごとに1ポイントが加減される。
- レーザーラン:レーザーピストルによる射撃と600mのランニングを組み合わせ、5回の射撃を行う。ランニングは合計3,000mで、13分20秒を500ポイントの基準とし、1秒の差につき1ポイントが加減される。
なお、これらは2026年のUIPM大会資料に示された得点基準です。大会区分や競技段階によって対戦形式などが異なる場合があり、2028年ロサンゼルス五輪の最終的な運用詳細については、今後の公式ルールや大会案内も確認する必要があります。
レーザーランは、なぜ最後まで目が離せないのか。
フェンシング、オブスタクル、水泳で獲得したポイントが、レーザーランのスタート時刻の差に換算されます。先行する選手が早くスタートし、後続選手は得点差に応じて遅れてスタートするハンディキャップ方式です。
そのため、スタート時点での順位が最終順位と一致するとは限りません。先行選手は逃げ切りを狙い、後続選手は走力と射撃の正確さを組み合わせて追い上げます。射撃に時間がかかれば、走る能力が高くても順位を落とす可能性があります。
2026年の新形式では射撃が4回から5回へ増え、最初に射撃を行う構成に変更されました。射撃を終えるまでの時間と、その直後のランニングをどうつなぐかが、勝負の見どころです。
競技時間については、UIPMが約90分の中継枠を意識したフォーマット改革を進めています。ただし、予選、準決勝、決勝の構成や会場の進行を含めた大会全体の所要時間は、開催大会ごとの日程によって変わります。
【歴史と五輪メダリスト】1912年の採用から佐藤大宗の快挙まで
近代五種がオリンピックに初めて登場したのは、1912年のストックホルム大会です。近代オリンピックの創始者として知られるピエール・ド・クーベルタンの構想に基づき、さまざまな状況に対応できる総合的な能力を競う競技として設けられました。
当初の競技には、フェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングが含まれていました。馬術は、与えられた馬を操る技術も含めて選手の総合力を試す種目でしたが、時代が進むにつれて競技環境やオリンピック競技としてのあり方が見直されるようになりました。
UIPMの歴史資料によると、近代五種は長らくスウェーデン勢が強さを発揮し、その後はハンガリーや旧ソ連なども有力国として台頭しました。女子個人がオリンピック種目に加わったのは2000年のシドニー大会です。競技形式も、複数日に分けた方式から1日で観戦しやすい方式へと変化してきました。
近代五種の主な歴史と日本選手の実績
| 年・大会 | 出来事 | 競技上の意味 |
|---|---|---|
| 1912年 | ストックホルム五輪で初採用 | 総合力を試すオリンピック競技として誕生 |
| 2000年 | シドニー五輪で女子個人が実施 | 男女の個人種目がそろう |
| 2021年 | 東京五輪の馬術をめぐる問題が国際的な議論に | 馬の福祉や競技の将来像が改革の焦点となる |
| 2022年 | UIPMの総会でオブスタクルの導入を支持 | 馬術に代わる新種目への移行が進む |
| 2024年 | 佐藤大宗選手がパリ五輪男子個人で銀メダル | 日本の近代五種で初のオリンピックメダル |
| 2026年 | 水泳の100m化など新フォーマットが国際大会で進行 | 2028年ロサンゼルス五輪を見据えた改革が具体化 |
日本の近代五種にとって大きな転機となったのが、2024年パリ五輪です。自衛隊体育学校所属の佐藤大宗選手が男子個人で銀メダルを獲得し、日本人として初めてオリンピックの近代五種で表彰台に立ちました。
日本近代五種協会の大会結果によると、佐藤選手は決勝で馬術を終えた段階から上位につけ、フェンシング、水泳を経て最終種目のレーザーランに臨みました。射撃で力を発揮して銀メダルを獲得した経過は、近代五種が一つの得意種目だけでは決まらないことを象徴しています。
歴代メダリストに目を向けると、東京2020大会では男子個人でジョー・チョン選手(英国)が金メダル、アハメド・エルゲンディ選手(エジプト)が銀メダル、チョン・ウンテ選手(韓国)が銅メダルを獲得しました。女子個人ではケイト・フレンチ選手(英国)が金メダルに輝いています。
続くパリ2024大会では、男子個人の金メダルがアハメド・エルゲンディ選手、銀メダルが佐藤選手、銅メダルがジョルジョ・マラン選手(イタリア)に渡りました。女子個人ではミシェル・グヤシュ選手(ハンガリー)が金メダルを獲得しています。なお、2028年大会のメダリストは2026年10月時点ではまだ決まっていません。
【馬術廃止の理由】東京五輪の問題とオブスタクル導入の背景
近代五種の改革を語るうえで避けて通れないのが、馬術の廃止です。長年続いてきた種目が変更された背景には、動物福祉への懸念、競技の信頼性、オリンピック競技としての将来性など、複数の課題がありました。
直接的な契機の一つとなったのが、2021年に開催された東京2020大会の女子馬術競技です。競技中の馬の扱いをめぐる問題が国際的な批判を呼び、UIPMは同年8月、馬の福祉を改善するための措置や安全性の検証を進めると発表しました。
ただし、馬術の廃止を東京大会の一つの騒動だけで説明するのは正確ではありません。UIPMは同年11月、競技の人気と信頼性を高めながら、身体的・精神的な挑戦という近代五種の理念を維持するため、ロサンゼルス2028大会に向けて馬術を別の種目に置き換える方針を示しました。
新種目の選定では、60を超える提案が検討されました。UIPMが公表した選定過程では、選手の意見、医学的な観点、運動負荷、けがや安全性、テレビ放送やメディアでの見せ方などが評価の対象となっています。2022年11月のUIPM総会では、投票した83加盟団体のうち69団体がオブスタクルの導入に賛成しました。
オブスタクルは、いわゆる障害物レースです。握る、ぶら下がる、登る、バランスを取るといった動作を連続して行うため、馬術とは異なる筋力や身体操作が大切です。テレビ番組「SASUKE」に代表される障害物競走を思い浮かべると、競技のイメージをつかみやすいでしょう。
馬術からオブスタクルへの変更は、単に一種目を入れ替えただけではありません。馬の調達や管理を必要とする競技環境から、選手自身の身体能力を中心に競う形式へと軸足を移すことで、会場設営や競技への参加機会、観戦方法も変わります。一方、障害物の攻略技術という新たな専門性が重要になるため、選手の育成やトレーニングにも変化が大切です。
つまり、馬術廃止の背景には、動物福祉への対応だけでなく、競技の公平性や持続可能性、観客にとっての分かりやすさを含む競技全体の再設計がありました。
【2028年ロサンゼルス五輪】オブスタクルの見どころと観戦ポイント
2028年ロサンゼルス五輪では、近代五種にオブスタクルを組み込んだ新しい競技形式が採用されます。LA28の公式競技案内でも、馬術に代わるオブスタクルは、障害物を連続して攻略する対戦型のレースとして紹介されています。
観戦時にまず注目したいのは、障害物を越える際のスピードと安定性です。単に速く走るだけではなく、次の障害物に向けた体勢の切り替えや、失敗を防ぐための判断がタイムに影響します。序盤でリードしても、障害物で減速したり、動作が乱れたりすれば、相手に逆転の機会を与えます。
次に注目したいのは、オブスタクルの結果が最終順位にどう影響するかです。近代五種では、前半の種目で得たポイントがレーザーランのスタート時刻に反映されます。障害物競走で好成績を残すことは、その場の順位を上げるだけでなく、最終種目を有利に進めるための重要な条件になります。
そして最大の見せ場は、やはりレーザーランです。走りながら射撃を行うのではなく、射撃とランニングを交互に繰り返すため、射撃場でのわずかな遅れが走力による追い上げを相殺することもあります。終盤では、先行選手がリードを守れるか、後続選手が射撃の精度を維持して差を縮められるかが勝負を分けます。
2028年大会の日程と競技形式について
LA28の公開競技案内では、近代五種は男女の個人種目を中心に実施され、競技会場はロサンゼルスのセプルベダ・ベイシン・レクリエーション・エリアに設けられるバレー・コンプレックス2とされています。公開日程案では7月15日から18日までの4日間にわたり、男女の準決勝と決勝を行う計画です。五輪の競技日程は今後変更される可能性があるため、実際の観戦計画では大会公式の最新案内を確認する必要があります。
観戦初心者にとっては、すべてのポイントを暗記する必要はありません。まずは、フェンシングやオブスタクル、水泳の結果で誰が先行するのかを確認し、レーザーランのスタート順と実際のゴール順を見比べるだけでも、近代五種ならではの面白さが伝わります。
【2026年最新】日本代表・佐藤大宗とロサンゼルス五輪への課題
2026年の日本代表を考えるうえで、佐藤大宗選手は重要な存在です。パリ五輪で日本初のメダルを獲得した実績は、日本の近代五種にとって大きな成果となりました。一方、馬術がオブスタクルに変わったことや、水泳とレーザーランのルール変更は、過去の実績だけでは測れない新たな対応力を選手に求めています。
日本近代五種協会が公表した2026年9月の第20回アジア競技大会の結果によると、佐藤選手は男子個人決勝で11位、冨田洋輔選手は8位でした。男子団体は4位となっています。女子個人では内田美咲選手が6位、矢野佑歩選手が10位、才藤歩夢選手が9位、鈴木結理選手が13位となり、女子団体は銅メダルを獲得しました。
この結果から見えてくるのは、2024年のメダル獲得が日本の競技力向上を示す大きな一歩である一方、国際大会で継続的に上位へ進出するには、男女双方の層を厚くする必要があるということです。団体での結果も、個人競技としての実力に加え、代表全体の競技力を測る材料になります。
ロサンゼルス五輪を見据えた課題は、オブスタクルへの適応だけではありません。2026年の新形式では水泳の距離が短縮され、レーザーランの射撃回数も増えました。これまでの練習方法をそのまま続けるのではなく、短時間でのスピード発揮、障害物の攻略技術、疲労下での射撃精度を一体として高める必要があります。
日本近代五種協会とUIPMの公式発表を追う際は、代表選手の選考情報、国際大会の成績、競技規則の更新を分けて確認すると、現状を整理しやすくなります。2026年の大会に出場した選手が、そのまま2028年五輪の代表に決まっているわけではありません。五輪の出場枠や代表選考は、今後の資格制度と国内の選考基準に基づいて決まります。
【近代五種】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:近代五種の5種目は何ですか?
A1:フェンシング、水泳、オブスタクル、射撃、ランニングです。射撃とランニングはレーザーランという一つのイベントに組み込まれるため、競技会では4イベントとして進行します。
Q2:近代五種で馬術が廃止された理由は何ですか?
A2:東京2020大会の馬の福祉をめぐる問題が改革を加速させましたが、それだけが理由ではありません。UIPMは競技の信頼性や人気、選手の安全性、運動負荷、放送・メディアでの見せ方などを検討し、馬術に代わる種目としてオブスタクルを選びました。
Q3:2028年ロサンゼルス五輪では、近代五種のルールはどう変わりますか?
A3:馬術に代わってオブスタクルが採用されます。また、2026年の国際大会では水泳が100m自由形に短縮され、レーザーランの射撃は5回に増えました。ロサンゼルス五輪の最終的な運用詳細については、大会前に公表される最新の公式ルールを確認してください。
近代五種は、フェンシング、水泳、オブスタクル、射撃、ランニングを組み合わせた総合競技です。1912年のストックホルム五輪で採用されてから長い歴史を持ちますが、馬術からオブスタクルへの移行や2026年の競技形式の変更により、競技の姿は大きく変わりつつあります。
観戦する際に押さえたいのは、各種目の得点だけでなく、その得点が最終種目のスタート順にどう反映されるかという点です。レーザーランで先行選手が逃げ切るのか、後続選手が射撃と走力を武器に追い抜くのか。その流れを理解すると、近代五種の戦略性が見えてきます。
日本勢では、パリ五輪で銀メダルを獲得した佐藤大宗選手の実績に加え、2026年アジア競技大会で女子団体が銅メダルを獲得したことも注目材料です。2028年ロサンゼルス五輪に向けては、新しいオブスタクルへの対応、短距離水泳のスピード、射撃の安定性が重要な評価ポイントになります。競技ルールと日本代表の選考情報を追いながら、新時代の近代五種を観戦することが、競技の魅力を深く理解する近道です。