2026年10月28日現在、YouTuberの「てんちむ」こと橋本甜歌氏と、ナイトブラ「モテフィット」の販売元であるYUIKU株式会社との裁判は、最高裁判所での手続きに進んでいます。2024年12月の第一審では、てんちむ氏に3億8457万4504円の損害賠償が命じられましたが、2026年10月14日の東京高裁の控訴審判決では、この支払い命令がすべて取り消されました。加えて、YUIKU側には224万4078円をてんちむ氏に支払うよう命じられています。
ところが、これで裁判が終わったわけではありません。YUIKU株式会社は10月26日、控訴審判決を不服として最高裁判所への上告と上告受理申立てを行ったと公表しました。注目すべきなのは、約3億8000万円の賠償命令が取り消された理由と、約224万円の支払いが何を意味するのかという点です。第一審から2026年の最新動向まで、判決の意味と今後の焦点を整理します。
【事件の全体像】てんちむ裁判は何が問題になったのか?

てんちむ裁判、通称「モテフィット裁判」は、インフルエンサーによる商品プロデュースと宣伝に際して、商品の販売元に対する説明責任をどこまで負うのかが争われた民事訴訟です。
問題となったのは、ナイトブラ「モテフィット」をめぐる商品プロデュース・宣伝と、てんちむ氏の豊胸手術の事実をめぐる説明です。2020年、この事実をめぐって騒動が表面化し、商品の販売元であるYUIKU株式会社との間で返金対応や損害負担をめぐる対立が生じました。
その後、てんちむ氏は購入者への返金に関連してYUIKU側に資金を送金したものの、返金の使途などをめぐって争いが続きました。報道によれば、てんちむ氏は2021年にYUIKU側を相手取り、返金資金の使途開示などを求めて提訴。これに対して会社側も、説明義務違反などを理由に損害賠償を求める反訴を行いました。
つまり、裁判の焦点は単純に「てんちむ氏が豊胸手術を受けていたか」という一点ではありません。商品のプロデュースや広告に際して何を説明すべきだったのか、販売への影響によって会社に生じた損害をどう計算するのか、そして過去の売上利益や返金資金を最終的な精算にどう反映させるのかが、法的な争点になりました。
なお、商品を購入した消費者の返金問題と、てんちむ氏と販売会社の間の損害賠償訴訟は、関連していても同一の問題ではありません。控訴審の金銭支払い命令だけを見て、購入者への返金がすべて完了した、あるいは会社側のすべての主張が否定されたと理解するのは正確ではありません。
てんちむ裁判の経緯を理解するには、騒動の発生、返金対応、第一審、控訴審、そして最高裁への申立てを順番に追う必要があります。特に2026年10月は、判決と会社側の対応が相次いだ重要な時期です。
| 時期 | 主な出来事 | 裁判上の意味 |
|---|---|---|
| 2020年 | モテフィットをめぐり、豊胸手術の事実と商品プロデュース・宣伝が問題化 | 販売元との対立が表面化する契機となった |
| 2021年 | てんちむ氏が返金資金の使途開示などを求めて提訴。会社側も反訴 | 返金対応から、説明義務や損害賠償をめぐる法廷闘争へ発展 |
| 2024年12月16日 | 東京地裁の第一審判決 | てんちむ氏に3億8457万4504円の損害賠償を命令 |
| 2025年1月 | てんちむ氏が控訴したことを公表 | 第一審判決を不服として第二審へ |
| 2026年10月14日 | 東京高裁の控訴審判決 | てんちむ氏への賠償命令が取り消され、YUIKU側に224万4078円の支払いを命令 |
| 2026年10月15日 | YUIKU株式会社が控訴審判決について公式見解を公表 | 損益相殺の適用や約224万円の支払いの趣旨について、会社側の見解を説明 |
| 2026年10月26日 | YUIKU株式会社が最高裁への上告・上告受理申立てを実施 | 控訴審判決の法的判断について最高裁の判断を求める段階へ |
| 2026年10月28日 | 上告の事実が報道各社で報じられる | 裁判は控訴審の結果だけで最終決着したとはいえない状況 |
第一審の賠償額は、てんちむ氏自身が2025年1月に公開した動画でも説明され、広く報じられました。その後、約1年10か月を経て控訴審の結論が示され、賠償額は大きく変わりました。
この時系列で特に重要なのは、2026年10月14日の判決と、同月26日の最高裁への申立てを区別することです。前者は東京高裁が示した控訴審の結論であり、後者はその結論に不服を持つYUIKU側が行った法的手続きです。上告したという事実そのものが、会社側の主張が認められたことを意味するわけではありません。
【判決結果を解説】3億8457万円が取り消され、約224万円の支払い命令が出た理由
2026年10月14日の東京高裁の控訴審判決について、てんちむ氏は同日、自身のXで判決結果を報告しました。翌15日のYouTube動画でも、第一審で命じられていた支払いがすべて取り消され、自身の支払い額が0円になったこと、さらに会社側に約224万円の支払いが命じられたことを説明しています。
金額を正確に整理すると、第一審で命じられた賠償額は3億8457万4504円です。一方、控訴審でYUIKU側に命じられた支払い額は224万4078円。第一審と控訴審では、金銭的な結論が大きく異なりました。
ただし、控訴審の結果を「裁判所が豊胸手術に関する説明義務違反は一切なかったと認定した」と解釈するのは適切ではありません。YUIKU株式会社が10月26日に公表した公式説明では、第一審と控訴審の双方が、豊胸手術の事実を知らせずに商品をプロデュース・宣伝した行為について、信義則上の説明義務違反に当たると認定したとされています。
同社は加えて、その行為によって約3億5185万円の損害が発生したとの判断も示されたと説明しています。その一方で、控訴審では損益相殺の法理が適用されたため、同社の損害賠償請求が認められなかったというのが、会社側の公式見解です。
ここで区別したいのは、行為の法的評価と、最終的な支払い額は別の問題だという点です。ある行為に説明義務違反が認められたとしても、損害額の算定や利益との相殺を含む計算によって、最終的な賠償請求が認められない場合があります。
また、会社側が発表した約3億5185万円という損害額と、第一審の賠償命令である3億8457万4504円は同一の数字ではありません。損害額の認定と、裁判で最終的に支払いを命じる金額は、区別して読む必要があります。
【判決理由の核心】損益相殺とは何か? なぜ賠償請求が認められなかったのか
今回の裁判で大きな注目を集めているのが「損益相殺」です。簡単にいえば、損害の発生と関連する利益がある場合に、その利益を損害額の算定に反映させる考え方です。ただし、どの利益を対象にするのか、どのような条件で差し引くのかは、具体的な事実関係や法的な評価によって変わります。
YUIKU株式会社の10月26日付公式発表によると、控訴審では、過去の販売売上から生じた利益と、在庫損害などをめぐる損失との間で損益相殺が適用され、同社の損害賠償請求が認められなかったとされています。同社は、この法理の適用方法や販売変動費などの認定に、過去の判例や法令の解釈との関係で問題があると主張しています。
つまり、会社側が最高裁の判断を求める主な理由は、単に賠償額がゼロになったことだけではありません。どの利益を損害額から差し引くべきなのか、利益と損害の関係をどう評価するのか、そしてその計算方法が法令や判例に照らして適切なのかという点が争われています。
この問題は、インフルエンサーが関わる商品販売に限らず、企業間の損害賠償訴訟全般に通じる論点です。損害が生じたことと、その損害の全額を相手方に請求できることは同じではありません。損害額を算定する際には、売上、利益、費用、在庫の残存価値など、複数の要素が関係することがあります。
もっとも、YUIKU側の説明は会社側の立場を示すものであり、それだけで控訴審判決の全理由を完全に再現したものとはいえません。判決の法的な意味を正確に理解するには、裁判所の判断そのものと、当事者がその判断について公表した見解を分けて考える必要があります。
【約224万円の正体】モテフィットの返金対応と損害賠償は別問題
約224万円の支払い命令についても、誤解が生じやすいポイントがあります。YUIKU株式会社は10月15日の公式発表で、この金額は会社側の損害賠償やペナルティーではなく、過去の購入者向け返金対応に関連する未精算資金の返還だと説明しました。
同社の説明によると、てんちむ氏から送金を受けた資金の一部は、モテフィット購入者への返金原資として扱われていました。しかし、返金対応の途中で訴訟が提起されたため、返金業務を一時中断せざるを得なくなり、約224万円が未精算のまま残っていたといいます。控訴審で命じられた224万4078円は、この残存資金を返還するものだというのが会社側の説明です。
したがって、約224万円の支払い命令をもって「YUIKU株式会社の違法行為が認定された」「会社側が損害賠償で敗訴した」と断定するのは正確ではありません。同社自身も、公式発表でそのような性質の支払いではないと説明しています。
一方で、てんちむ氏は控訴審の結果を逆転勝訴として報告しています。本人側の報告と会社側の説明は、同じ判決を異なる立場から伝えたものです。どちらか一方の発表だけで裁判のすべてを理解するのではなく、判決の主文、損害賠償請求の扱い、返金資金の精算という三つの論点を分けて見ることが大切です。
また、約224万円の返還命令と、購入者一人ひとりへの返金状況も別の論点です。この金額だけを見て、すべての購入者への返金が完了したと判断することはできません。返金の対象や進捗については、個別の公式案内などで確認する必要があります。
【プロの結論】2026年最新の今後の見通しと最高裁で注目すべき点
2026年10月28日現在、YUIKU株式会社は10月26日付で最高裁判所への上告と上告受理申立てを行っています。会社側は、損益相殺の法理の適用や損害額の計算に法令解釈上の問題があるとして、最高裁の判断を求めています。
今後の焦点は、最高裁が申立てをどのように扱うか、そして控訴審判決の法的判断が見直されるかどうかです。民事訴訟における最高裁への上告は、通常の控訴審のように事実関係を一から全面的に審理し直す手続きではありません。民事訴訟法では、上告理由や上告受理の対象となる事件について定められており、法令の解釈に関する重要な事項などが判断の対象となり得ます。
YUIKU側が上告・上告受理申立てを行ったからといって、最高裁が必ず事件を受理するわけではありません。また、申立てが行われた段階で、会社側の主張が認められたと評価することもできません。今後は、申立てに対する判断や、必要に応じて示される最高裁の判断を待つことになります。
この裁判から読み取れる重要な教訓は、インフルエンサーの広告・プロデュース活動では、商品の魅力を伝えることだけでなく、販売会社との契約、商品の訴求内容、説明すべき情報の範囲、問題発生時の返金や損害負担の取り決めが重要になるという点です。
消費者にとっても、著名人が紹介しているという理由だけで商品の効果や品質を判断するのではなく、商品そのものの仕様、販売事業者の説明、返金条件、広告表現の根拠を確認することが有効です。知名度と商品の性能は別であり、宣伝に関わった人物の法的責任と、購入者が利用できる返金制度も分けて理解する必要があります。
現段階で、てんちむ氏への約3億8457万円の賠償命令が取り消されたという控訴審の結論は明確です。しかし、最高裁への申立てが行われた以上、裁判の最終的な行方については今後の手続きを見守る必要があります。2026年の最新動向を追う際には、「控訴審の判決結果」と「最高裁での手続きの結果」を混同しないことが、最も重要な判断基準です。
【てんちむ裁判】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:てんちむ裁判の現在の状況はどうなっていますか?
A1:2026年10月14日に東京高裁で控訴審判決が言い渡され、てんちむ氏への3億8457万4504円の賠償命令は取り消されました。その後、YUIKU株式会社が10月26日に最高裁への上告・上告受理申立てを行っており、最高裁での手続きが今後の焦点です。
Q2:なぜ3億8457万円の支払い命令が取り消されたのですか?
A2:YUIKU株式会社の公式説明によれば、控訴審では損益相殺の法理が適用され、同社の損害賠償請求が認められませんでした。同社はこの法理の適用や計算方法に問題があると主張し、最高裁の判断を求めています。
Q3:約224万円は、YUIKU株式会社に対する損害賠償なのですか?
A3:同社の公式説明では、224万4078円は購入者への返金対応に関連して残っていた未精算の返金原資を返還するための支払いです。同社は、損害賠償やペナルティーとして命じられたものではないと説明しています。
Q4:てんちむ氏は豊胸手術に関する説明義務違反を認定されたのですか?
A4:YUIKU株式会社は、第一審と控訴審の双方で、豊胸手術の事実を知らせずに商品をプロデュース・宣伝した行為について、信義則上の説明義務違反が認定されたと説明しています。賠償請求が認められなかったことと、説明義務に関する判断は、分けて理解する必要があります。
Q5:最高裁でYUIKU株式会社の主張が認められる可能性はありますか?
A5:今後の判断次第ですが、上告や上告受理申立てを行ったことだけで、会社側の主張が認められると決まったわけではありません。最高裁が申立てをどのように扱うか、損益相殺の適用に関する法的な争点がどう判断されるかが焦点です。
てんちむ裁判は、2024年12月の東京地裁の第一審で約3億8457万円の賠償命令が出た後、2026年10月14日の東京高裁の控訴審で大きく結論が変わりました。てんちむ氏への支払い命令はすべて取り消され、YUIKU株式会社には224万4078円の支払いが命じられています。
ただし、約224万円の支払いは、会社側の説明では未精算の返金原資の返還に当たります。また、YUIKU側は損益相殺の法理の適用などを不服として、10月26日に最高裁への上告・上告受理申立てを行いました。
2026年10月28日時点で押さえておきたいのは、第一審の賠償額、控訴審の判決結果、会社側の公式見解、最高裁への申立てをそれぞれ区別することです。今後の焦点は、最高裁での手続きがどのように進むか、そして損益相殺をめぐる法的な争点にどのような判断が示されるかにあります。
インフルエンサーと企業の協業では、宣伝時の説明責任だけでなく、返金対応や損害額の算定、契約上の責任分担までが法的な争点になり得ます。今回の裁判は、広告の信頼性と企業活動の責任を考えるうえでも、今後の動向を注視すべき事例です。