性的暴行とは、どこからどこまでを指すのでしょうか。身体を触られた、無理やりキスされた、嫌だと言えないまま性的な行為をされた、あるいは飲酒している間に性行為をされたなど、状況によって疑問を抱くケースは異なります。日本では、2023年7月13日に性犯罪に関する刑法が改正され、不同意わいせつ罪と不同意性交等罪が施行されました。加えて、2025年6月1日には拘禁刑が導入され、2026年現在の刑法では刑罰の表記も変わっています。
判断の要点は、行為の種類だけではありません。相手が同意していたのか、同意しない意思を示したり貫いたりすることが難しい状況だったのか、年齢や立場にどのような事情があったのかも重要です。ここでは、法務省の説明や現行刑法の条文、内閣府・警察庁の被害者支援情報をもとに、行為別の判断基準、成立要件、証拠の残し方、相談先まで整理します。
【性的暴行とはどこまで?】法律上の意味と判断の基本

「性的暴行」は、日常会話や報道などで使われる言葉ですが、刑法に「性的暴行罪」という名称の犯罪が一つだけ存在するわけではありません。実際の行為や状況に応じて、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪などの成立が検討されます。
また、同意のない性的な行為は、刑事事件として立件できるかどうかとは別に、性暴力に当たり得ます。内閣府男女共同参画局も、本人の同意がない性的な行為を性暴力と位置づけ、相手と対等な関係にない場合や、嫌だと言えない状況での行為にも注意を促しています。
判断の基本は、次の3点です。
- 何をされたのか:身体への接触、キス、口腔性交、挿入を伴う行為など、行為の具体的な内容。
- どのような状況だったのか:暴行や脅迫、飲酒、睡眠、恐怖、立場の差などによって、同意しない意思を示すことが難しかったか。
- 年齢などの条件に該当するか:16歳未満の相手に対する行為など、本人の同意の有無だけでは判断できない場合がある。
特に注意したいのは、抵抗できなかったことと、同意していたことは同じではないという点です。恐怖で身体が動かなくなる、相手との関係を壊すことが怖くて断れない、突然の行為に反応できないといった状況も、法律上の判断に関わる可能性があります。
一方で、性的な行為に同意がなかったという事情だけで、必ず特定の犯罪の成立が確定するわけではありません。刑事責任については、行為の内容、当時の状況、法定の要件などを踏まえて判断されます。
【身体を触る・無理やりキス・挿入】行為別に見る性的暴行の具体例
性的暴行がどこまで及ぶかを考える際は、行為を具体的に分けると理解しやすくなります。挿入を伴う行為だけが性犯罪なのではなく、身体への接触やキスも、内容や状況によって刑法上の問題になります。
| 行為の例 | 考えられる法的評価 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 胸や臀部などを無断で触る、身体を執拗にまさぐる | 不同意わいせつ罪などが成立する可能性 | 接触の部位、方法、性的な性質、同意の有無、当時の状況 |
| 無理やりキスをする、口や身体に性的な接触をする | 不同意わいせつ罪などが成立する可能性 | 不意打ち、押さえつけ、拒否を無視した行為などの事情 |
| 拒否しにくい状況で服を脱がせたり、性的な接触を続けたりする | 不同意わいせつ罪などが成立する可能性 | 恐怖、脅迫、立場の差、意思を示すことの困難さ |
| 同意しない意思を示せない状態などで性交、口腔性交、肛門性交をする | 不同意性交等罪が成立する可能性 | 法定の行為類型と、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態など |
| 膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する | 不同意性交等罪が成立する可能性 | 刑法177条が定める性交等に該当するか、同意に関する要件を満たすか |
この表は行為別の一般的な整理であり、個別の事件について犯罪の成立を断定するものではありません。法的評価は具体的な事情によって変わります。
身体を触る行為については、衣服の上からであっても、胸や臀部などを無断で性的に触る行為が不同意わいせつ罪に該当する可能性があります。肌に直接触れたかどうかだけで、性犯罪か否かが決まるわけではありません。
無理やりキスをする行為についても同様です。キスをしただけだから犯罪にならない、という一律の基準はありません。相手が拒否していたのか、不意打ちだったのか、暴行や恐怖などによって拒否することが難しかったのかといった事情が問題になります。
挿入を伴う行為については、刑法177条の「性交等」の定義が重要です。同条は、性交に加えて、肛門性交、口腔性交、膣や肛門への一定の挿入行為などを対象としています。一般にイメージされる膣性交だけに限られません。
また、刑法上の性犯罪に当たるかという問題と、民事上の損害賠償や、各種条例などに違反するかという問題は別です。一つの行為でも、複数の法的な観点から検討される場合があります。
【不同意わいせつ罪・不同意性交等罪】成立要件と刑罰の違い
2023年の刑法改正では、従来の強制わいせつ罪や強制性交等罪などの枠組みが見直され、不同意わいせつ罪と不同意性交等罪が設けられました。施行日は2023年7月13日です。
法務省の改正説明では、暴行や脅迫の有無だけで判断するのではなく、同意しない意思を形成する、表明する、または貫くことが困難な状態に着目した規定になっています。
2026年現在、両罪の主な違いは、対象となる行為と刑罰です。
- 不同意わいせつ罪(刑法176条):法定の事情などによって同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合などに成立し得る犯罪。法定刑は6か月以上10年以下の拘禁刑です。
- 不同意性交等罪(刑法177条):同様の事情によって同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、法律で定められた性交等をした場合などに成立し得る犯罪。法定刑は5年以上の有期拘禁刑です。
両罪では、相手をだまして、わいせつな行為ではないと誤信させたり、行為者について人違いをさせたりした場合なども、条文に定める要件に応じて処罰の対象となり得ます。また、16歳未満の相手に対する行為には、年齢に関する規定があります。
ここでいう「拘禁刑」は、2025年6月1日に懲役と禁錮を一本化して導入された刑罰です。法務省の説明によると、拘禁刑の創設に伴い、現在の刑法では性犯罪の刑罰も拘禁刑という表記になっています。2023年の性犯罪規定の改正と、2025年の拘禁刑導入は、別の法改正です。
なお、法定刑は裁判で言い渡される刑の範囲を示すもので、個別事件の量刑が自動的に決まるという意味ではありません。
不同意の意思を示せない状態とは?刑法176条1項は、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難になる原因として、主に次の8つを挙げています。刑法177条も、この規定を参照しています。
- 暴行・脅迫:押さえつけられる、脅されるなどの状況。
- 心身の障害:心身の障害によって意思を示すことなどが難しい状況。
- アルコール・薬物の影響:飲酒や薬物の影響によって判断や意思表示が困難な状況。
- 睡眠など意識が明瞭でない状態:眠っている、意識がはっきりしないなどの状況。
- 意思を示す時間がない:突然の行為などによって、同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない状況。
- 恐怖・驚愕:予想外の出来事に直面し、恐怖や驚きによって意思を示すことなどが困難な状況。
- 虐待に起因する心理的反応:虐待による恐怖や無力感などが影響している状況。
- 経済的・社会的な立場による不利益への懸念:上司と部下、教師と生徒など、立場の差によって不利益を恐れている状況。
これらは法律上の判断に関わる代表的な事情です。列挙された事情があるだけで、どのようなケースでも直ちに犯罪が成立するということではありません。実際には、その事情によって同意しない意思を示すことなどが困難だったか、行為者がその状態にさせた、またはその状態に乗じたといえるかなど、法定の要件に照らして判断されます。
例えば、拒否したのに身体を押さえつけられた場合だけでなく、予想外の行為に恐怖を感じて動けなかった場合も、具体的な状況によっては法律上の問題になります。大声で拒否したか、最後まで抵抗したかという一点だけで判断されるわけではありません。
【飲酒・16歳未満・配偶者間】性的同意をめぐる誤解と注意点
性的同意を考えるときには、単に「はい」と言ったか、「嫌だ」と言ったかだけではなく、本人が自分の意思で同意できる状況だったかを考える必要があります。とくに飲酒、年齢差、上下関係、夫婦や恋人といった親密な関係では、誤解が生じやすいポイントがあります。
飲酒していたら同意があったことになる?なりません。お酒を飲んだこと自体が同意を意味するわけではありません。刑法176条は、アルコールや薬物の影響を、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態に関わる事情として挙げています。
ただし、飲酒していたという事実だけで、すべての性行為が自動的に不同意性交等罪に該当するわけでもありません。飲酒の程度、意識や判断の状態、行為に至る経緯、相手がどのような状態を認識していたかなどを含め、法律上の要件が検討されます。
意識がもうろうとしている、眠っている、意思を明確に示せないといった状態では、相手の反応だけを根拠に同意があると判断することは危険です。相手の意思を確認できないときは、性的な行為を進めないことが基本です。
16歳未満との性的行為はどう扱われる?2023年の改正では、性犯罪に関する年齢要件が見直されました。2026年現在の刑法では、16歳未満の相手に対するわいせつな行為について、年齢に関する規定が設けられています。
- 13歳未満:相手の年齢に関する規定により、わいせつな行為は不同意わいせつ罪、性交等は不同意性交等罪の対象となり得ます。
- 13歳以上16歳未満:行為者が相手より5歳以上年長である場合、年齢に関する規定の対象となり得ます。
- 年齢差が5歳未満の場合:年齢要件だけで処罰対象外と決まるわけではありません。暴行や脅迫、飲酒の影響、拒否することの困難さなど、ほかの成立要件に該当すれば犯罪が成立する可能性があります。
この年齢差は、単純に学年や満年齢だけで判断するのではなく、生年月日を基に確認する必要があります。また、16歳以上であればあらゆる性的行為が合法になるという意味でもありません。不同意の状況や、ほかの法令の規定が問題になる場合があります。
夫婦や恋人の間でも性的暴行は成立する?成立する可能性があります。刑法176条と177条は、婚姻関係の有無にかかわらず処罰する旨を明記しています。結婚していることや交際していることは、すべての性的な行為に対する包括的な同意にはなりません。
以前は性行為に同意していたとしても、今回の行為に同意しているとは限りません。また、キスには同意していても、その先の性的行為に同意したことにはなりません。いったん同意した場合でも、途中で気持ちが変われば中止を求めることができます。
性的同意は、相手の意思を尊重したうえで、その都度確認するものです。上下関係や経済的な依存関係などによって断ることが難しい状況では、表面的な返事だけで本人の意思を判断しないことも重要です。
【性的暴行の証拠・相談先】被害に遭ったときにできること
性的暴行の被害に遭った場合、「証拠がないから相談できない」「抵抗できなかったから被害として扱われないのではないか」と考え、相談をためらう人もいます。しかし、被害を受けた人が最初からすべての証拠を集めたり、犯罪に当たるかどうかを自分で判断したりする必要はありません。
証拠として役立つ可能性があるもの事件の内容によっては、次のような情報が捜査や法律相談の参考になる場合があります。
- メッセージやSNSの記録:相手とのやり取り、拒否を伝えた内容、行為の前後の会話など。
- 日時や場所に関する情報:出来事が起きた時刻、場所、移動経路、当日の予定など。
- 衣服や身体に関する資料:当時の衣服、けがの写真、医療機関の診療記録など。
- 通話・位置情報などの記録:当日の通話履歴や、保存されている位置情報など。
- 第三者に話した記録:出来事の直後に相談した相手や、当時の状況を知る人に関する情報。
これらがすべてそろっていなければ相談できない、ということではありません。証拠の有無や内容によって事件の評価が変わることはありますが、被害者本人が証拠だけで犯罪の成立を証明しなければならないわけではありません。
証拠を残す際に気をつけたいことメッセージやSNSのやり取りは、可能であれば削除せず、日時や相手が分かる形で保存してください。写真や記録を残せる場合は、加工せず元のデータを保管することが望まれます。衣服などが残っている場合は、洗濯などをせずに保管する方法について、支援機関や警察、医療機関に相談できます。
被害直後であれば、身体の安全を確保し、必要に応じて医療機関を受診してください。けがの治療、緊急避妊、性感染症の検査、証拠採取などは、状況に応じて支援を受けられる場合があります。証拠が残るかどうかを気にして受診を遅らせる必要はありません。
性暴力ワンストップ支援センター「#8891」相談先が分からないときは、全国共通番号「#8891(はやくワンストップ)」を利用できます。電話をかけると、最寄りの性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターにつながります。
内閣府の案内によると、ワンストップ支援センターでは、医療機関の紹介や証拠採取などの医療的支援、カウンセリングなどの心理的支援、弁護士などの専門家の紹介といった法的支援、病院や警察への同行支援などを行っています。支援内容や受付体制は地域によって異なる場合があります。
警察への相談を希望する場合は、性犯罪被害相談電話「#8103(ハートさん)」も利用できます。警察庁が案内する全国共通の相談窓口で、性犯罪や性暴力の被害について相談できます。緊急の危険が迫っている場合は110番を利用してください。
相談したからといって、すぐに自分だけで警察への説明や手続きをすべて進めなければならないわけではありません。何が起きたか整理できていない段階でも、まず支援機関に話すことができます。被害の直後に相談できなかった場合も、相談を諦める必要はありません。
【性的暴行とはどこまで】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:身体を触られただけでも性的暴行になりますか?
A1:なり得ます。胸や臀部などを無断で性的に触る行為は、状況によって不同意わいせつ罪などに該当する可能性があります。挿入を伴わないからといって、性犯罪に当たらないとは限りません。ただし、個別の事件では行為の内容や当時の状況などから判断されます。
Q2:無理やりキスされた場合や、飲酒していて拒否できなかった場合も犯罪になりますか?
A2:犯罪が成立する可能性があります。無理やりキスをする行為は、状況によって不同意わいせつ罪などの対象になり得ます。また、飲酒によって同意しない意思を示すことなどが困難な状態にあり、その状態に乗じて性的な行為が行われた場合も、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪の成立が問題になります。具体的な判断は個別の事情によります。
Q3:性的暴行の証拠がなくても相談できますか?
A3:相談できます。メッセージや衣服、医療記録などが残っていれば役立つ可能性がありますが、すべての証拠がそろっている必要はありません。何をされたか整理できていなくても、性暴力ワンストップ支援センターの「#8891」や、警察の性犯罪被害相談電話「#8103」に相談できます。
性的暴行とはどこまでを指すのかを考える際、重要なのは行為が挿入を伴うかどうかだけではありません。身体を触る、無理やりキスをする、拒否できない状態で性的な行為をするなど、さまざまな行為が性暴力に当たり、状況によっては不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が成立する可能性があります。
2026年現在の刑法では、2023年の改正で定められた不同意に関する規定が適用され、2025年6月1日からは刑罰の表記が拘禁刑に変更されています。暴行や脅迫だけでなく、飲酒や睡眠による意識状態、恐怖や驚愕、立場の差、16歳未満の年齢要件なども、法律上の判断に関わる要素です。配偶者や恋人との間でも、同意のない性的な行為が問題になり得ます。
同時に、性暴力に当たるかどうかという問題と、刑法上の特定の犯罪が成立するかどうかは区別して考える必要があります。個別の事件は、行為の内容や状況、法律上の要件を踏まえて判断されます。
もし自分や身近な人が性的な被害に遭ったのであれば、抵抗できなかったことや、すぐに相談できなかったことを理由に、自分を責める必要はありません。証拠が十分にあるかどうかを一人で判断せず、まず安全を確保し、必要に応じて医療機関や支援機関につながることが大切です。相談先に迷ったときは、全国共通番号「#8891」を利用できます。