ハンタウイルスは日本のネズミにも関係するのか。2026年に海外で発生したクルーズ船の集団感染をきっかけに、国内のネズミや感染リスクを心配する人もいる可能性があります。厚生労働省と国立健康危機管理研究機構(JIHS)の公表資料によると、日本では過去に実験用ラットを介した感染事例がありましたが、腎症候性出血熱は1999年以降、国内で患者の発生が報告されていません。また、ハンタウイルス肺症候群についても、国内の患者発生は報告されていません。
ただし、「日本では感染報告がない」という事実と、「日本のネズミがハンタウイルスと無関係である」という説明は同じではありません。ウイルスの種類によって自然宿主となるネズミが異なり、感染経路や症状、予防上の注意点も変わります。2026年10月28日時点で確認できる公的情報をもとに、国内の感染状況からネズミのフンの掃除方法まで整理します。
【日本のネズミにもいる?】ハンタウイルスとの関係と保有の実態

ハンタウイルスは、オルソハンタウイルス属に分類されるウイルスの総称です。ネズミやハタネズミなどのげっ歯類を自然宿主とし、ウイルスを保有する動物の排泄物などを通じて人に感染することがあります。
日本のネズミについて考えるとき、押さえておきたいのは、ハンタウイルスには複数の種類があり、それぞれ感染を維持する動物の種類が異なるという点です。
長崎大学の解説では、日本の港湾地域などに生息するドブネズミが、腎症候性出血熱の原因となるソウルウイルスを保有している可能性や、北海道のタイリクヤチネズミにプーマラウイルスに近縁のウイルスが存在する可能性が紹介されています。ただし、これは日本のネズミ全体が一律にウイルスを保有しているという意味ではありません。
また、野生のネズミがウイルスを保有していても、必ずしも目に見える症状を示すとは限りません。ネズミを見かけた、フンが落ちていたという情報だけで、そこにハンタウイルスが存在すると判断することはできません。
日本国内のネズミについて、すべての地域・種類を網羅した最新の保有率を一つの数値で示すことも困難です。地域ごとの動物相や調査対象、検査方法によって結果は異なります。国内のネズミに関する情報を読む際は、感染症の患者数と、動物からウイルスが検出されたかどうかを区別する必要があります。
【2026年最新】日本国内の感染状況と1999年以降の経緯
2026年10月28日時点で確認できる厚生労働省とJIHSの公表情報では、国内のハンタウイルス感染症について、過去の実験動物由来の事例と、現在の患者発生状況を分けて理解が必要です。
日本では1970年代から1980年代にかけて、実験用ラットに関連する腎症候性出血熱の感染事例が報告されました。日本感染症学会の解説では、22機関で計126例が発生した経緯が紹介されています。実験動物を介した感染は、飼育環境や動物の衛生管理が感染対策上の課題だった時期の事例です。
その後、感染症対策や実験動物の管理体制が整備され、感染症法が施行された1999年以降、腎症候性出血熱の国内患者発生は報告されていません。ハンタウイルス肺症候群についても、厚生労働省は国内患者の発生を報告していないと説明しています。
一方、2026年5月には、南大西洋を航行したクルーズ船「MV Hondius」に関連するアンデスウイルス感染症の集団事例が国際的な注目を集めました。世界保健機関(WHO)が7月2日に公表した最終段階の報告では、確定例12人、可能性例1人の計13人が報告され、3人が死亡しました。WHOは、接触者の健康観察が完了し、追加の二次感染が確認されなかったことを受け、この事例は封じ込められたと発表しています。
この海外事例は、日本国内でネズミから感染が広がったことを示すものではありません。JIHSの2026年7月3日付の評価でも、クルーズ船の事例は海外で発生したものとして整理され、日本の感染状況とは区別されています。
つまり、海外で重い感染症が発生した事実は重要ですが、それだけを理由に日本国内で流行が始まったと判断することはできません。国内の感染状況は、厚生労働省やJIHSが公表する患者発生情報とリスク評価に基づいて確認することが大切です。
【違いを比較】腎症候性出血熱とハンタウイルス肺症候群
ハンタウイルス感染症を理解するうえで、腎症候性出血熱(HFRS)とハンタウイルス肺症候群(HPS)の違いは欠かせません。同じハンタウイルスの仲間による感染症でも、主に問題となる臓器や流行地域が異なります。
| 比較項目 | 腎症候性出血熱(HFRS) | ハンタウイルス肺症候群(HPS) |
|---|---|---|
| 主な流行地域 | アジアや欧州など、ユーラシア大陸を中心とする地域 | 北米・中南米 |
| 主に影響を受ける臓器 | 腎臓、血管など | 肺、心臓・循環器系など |
| 主な症状 | 発熱、頭痛、筋肉痛、重症時のショックや腎不全 | 発熱、筋肉痛、咳、重症時の呼吸不全や循環不全 |
| 潜伏期間の目安 | 1~5週間程度。通常は2~3週間 | 1~7週間程度。通常は約2週間 |
| 日本国内の患者発生状況 | 1999年以降、患者発生の報告なし | 国内患者の報告なし |
| 主な感染経路 | 感染したげっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入、汚染された食品の摂取など | 感染したげっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入、汚染された物や食品との接触など |
表の内容は、厚生労働省とJIHSの疾患解説に基づいています。潜伏期間や症状には個人差があり、表は一般的な目安です。
HFRSでは腎臓の機能が障害され、重症化すると腎不全やショックを起こすことがあります。一方、HPSは呼吸器や循環器への影響が大きく、初期の発熱や筋肉痛から急速に呼吸不全へ進行する場合があります。
いずれも早期の医療対応が重要な感染症です。ただし、発熱や筋肉痛だけでハンタウイルス感染症と判断することはできません。症状が出る前後の行動歴、ネズミとの接触、海外渡航歴なども、医療機関が原因を考えるうえでの手掛かりになります。
【糞尿から感染する?】主な感染経路と人から人への感染
ハンタウイルスの主な感染経路は、感染したげっ歯類の尿、フン、唾液などで汚染された環境を介するものです。特に注意したいのは、ネズミの排泄物が乾燥して粉じんとなり、それを吸い込むケースです。
例えば、長期間閉め切られた倉庫、物置、空き家、ネズミが出入りする天井裏などでは、フンや尿が堆積している可能性があります。そこを十分な対策なしに掃除すると、汚染物質を含む粉じんが舞い上がり、吸い込む危険性があります。
また、排泄物で汚染された食品や飲料水を口にすること、汚染された物に触れた手で目・鼻・口に触れること、ネズミにかまれることなども感染経路として知られています。感染したネズミを素手で触らないことはもちろん、フンを見つけた場所の食品や調理器具の衛生管理にも注意が必要です。
一方、ハンタウイルス全体が人から人へ容易に広がるわけではありません。これまでに人から人への感染が確認されているものとして、南米で流行するアンデスウイルスが知られています。WHOは2026年のクルーズ船事例について、人から人への二次感染が起きたと報告しました。
ただし、この事例を通常の風邪やインフルエンザのように広く人から人へ感染する病気と同一視するのは適切ではありません。WHOの7月2日の報告では、接触者の追跡と健康観察が完了し、追加の二次感染は確認されませんでした。
アンデスウイルスを媒介する主な野生げっ歯類は南米の特定の地域に生息しています。JIHSは、HPSを引き起こすウイルスを媒介するげっ歯類が日本には生息していないことなどから、国内でHPSが発生するリスクは高くないと評価しています。海外の集団事例と、日本で日常的に見かけるネズミのリスクを混同しないことが重要です。
【症状と潜伏期間】感染が疑われるときの判断基準
ハンタウイルス感染症の症状は、原因となるウイルスの種類によって異なります。初期症状は一般的な感染症と似ているため、症状だけで見分けることは困難です。
腎症候性出血熱では、通常2~3週間程度の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、筋肉痛、上気道炎症状などが現れます。重症化すると血圧低下やショック、腎不全などを起こすことがあります。
ハンタウイルス肺症候群では、潜伏期間は通常約2週間とされますが、1~7週間程度の幅があります。初期には発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、吐き気などが現れ、その後、咳や息切れ、呼吸困難などが急速に進むことがあります。
次のような状況では、医療機関への相談を検討してください。
- ネズミのフンや尿が多く残る場所を掃除した後に発熱や強い倦怠感が出た。
- ネズミにかまれたり、排泄物で汚染された環境に接触したりした後に体調が悪化した。
- ハンタウイルスの流行地域を訪れた後、発熱や筋肉痛、呼吸器症状などが現れた。
特に息苦しさ、呼吸困難、意識の異常、急激な体調悪化がある場合は、速やかに救急医療につながる必要があります。受診時には、ネズミとの接触状況、掃除をした場所、海外渡航歴、症状が始まった時期を伝えてください。
ハンタウイルス感染症には、広く確立した特異的な治療法やワクチンがないため、早期診断と症状に応じた治療が重要です。疑わしい曝露があった場合、症状が軽いからといって自己判断で放置することは避けましょう。
【家庭でできる予防策】ネズミのフンの掃除方法と注意点
家庭での対策では、ネズミを見つけてから駆除するだけでなく、排泄物への接触や粉じんの吸入を防ぎ、ネズミが侵入しにくい環境をつくることが重要です。
特に注意したいのが、ネズミのフンを乾いたまま掃除する方法です。ほうきで掃いたり、家庭用掃除機で吸い取ったりすると、排泄物を含む粉じんが舞い上がるおそれがあります。
フンを見つけたときは、次の手順を基本にしてください。
- 換気する:窓や扉を開けて十分に換気し、人やペットが掃除場所に近づかないようにします。長期間閉め切られていた場所では、入室前に換気時間を確保してください。
- 乾いたまま触らない:フンや尿の跡を、ほうきや掃除機で直接処理しないでください。使い捨て手袋を着用し、排泄物を飛散させないようにします。
- 消毒液で十分に湿らせる:対象物に使用できる消毒剤を製品表示に従って使い、フンや尿の跡を十分に湿らせます。消毒剤の指定された接触時間を守り、乾いた状態でこすらないようにします。
- ペーパータオルで回収する:湿らせた排泄物をペーパータオルなどで静かに拭き取り、袋に入れて密封します。処理後は周囲の汚染された表面も適切に清掃・消毒してください。
- 手を洗う:使用した手袋などを適切に廃棄し、石けんと流水で手を十分に洗います。
この方法は、米国疾病予防管理センター(CDC)が示すハンタウイルス対策の考え方に沿ったものです。使用する消毒剤の濃度や接触時間は製品ごとに異なるため、表示を確認してください。塩素系製品を使用する場合は、酸性洗剤などと混ぜないことも大切です。
フンが大量にある場合、巣や死骸が見つかった場合、換気設備や断熱材などに汚染が及んでいる場合は、無理に自分で処理せず、専門の害虫駆除・清掃業者への相談を検討してください。通常の家庭内の少量のフンと、長期間放置された大量の排泄物では、必要な対策が異なります。
再発防止には、食品を密閉容器に入れる、ペットフードを放置しない、生ごみを適切に管理する、壁や配管周辺の隙間を塞ぐといった対策も有効です。ネズミの侵入経路を減らし、餌や水を得にくい環境を維持することが、日常生活で実践できる基本的な予防策です。
【プロの結論】国内リスクを正しく理解するための3つの視点
ハンタウイルスと日本のネズミの関係を理解するには、ニュースの見出しだけで危険性を判断せず、感染症の種類、国内の患者発生状況、実際の曝露状況を分けて考える必要があります。
第一に、国内で患者発生が報告されていないことと、ウイルスが自然界に存在しないことは別の話です。日本では過去に実験用ラットを介した感染事例があり、国内のげっ歯類がハンタウイルスと無関係とはいえません。一方、過去の事例を現在の一般家庭での感染リスクにそのまま当てはめることもできません。
第二に、2026年の海外事例は、アンデスウイルスの特性を理解する材料として重要ですが、日本国内で同じ感染状況が起きていることを示すものではありません。WHOが公表したクルーズ船の事例では、限定的な人から人への感染が確認されましたが、7月2日の公表時点で接触者の追跡が完了し、追加感染は確認されていません。
第三に、家庭で優先すべきなのは、過度に恐れることではなく、ネズミの排泄物を適切に処理し、侵入や汚染を防ぐことです。フンを乾いたまま掃かない、食品を密閉する、隙間を塞ぐという基本的な対策は、ハンタウイルスに限らず、ネズミが媒介するほかの感染症や衛生上の問題への対策にもつながります。
【ハンタウイルス日本のネズミ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:日本のネズミはハンタウイルスを保有していますか?
A1:日本のげっ歯類とハンタウイルスとの関係は知られており、ドブネズミがソウルウイルスを保有している可能性などが指摘されています。ただし、すべてのネズミが保有しているわけではなく、目の前のネズミやフンにウイルスが存在するかどうかを見た目だけで判断することはできません。
Q2:日本国内でハンタウイルスに感染した人はいますか?
A2:過去には1970年代から1980年代にかけて、実験用ラットに関連する腎症候性出血熱の感染事例が報告されています。一方、感染症法が施行された1999年以降、国内の腎症候性出血熱の患者発生は報告されておらず、ハンタウイルス肺症候群についても国内患者の報告はありません。
Q3:ネズミのフンは掃除機で吸っても大丈夫ですか?
A3:乾いたフンを掃除機で吸ったり、ほうきで掃いたりする方法は避けてください。汚染物質を含む粉じんが舞い上がるおそれがあります。換気し、手袋を着用したうえで、適切な消毒剤で十分に湿らせてから静かに拭き取る方法が基本です。大量のフンや巣がある場合は専門業者への相談を検討してください。
Q4:ハンタウイルスは人から人へ感染しますか?
A4:ハンタウイルスの多くは、感染したげっ歯類やその排泄物などを介して人に感染します。例外として、南米のアンデスウイルスでは濃厚な接触による人から人への感染が確認されており、2026年のクルーズ船事例でも二次感染が報告されました。ただし、ハンタウイルス全体が容易に人から人へ広がるという意味ではありません。
Q5:ネズミのフンに触れたら、必ず病院に行く必要がありますか?
A5:フンに触れたという事実だけで感染が確定するわけではありません。曝露の状況や地域、症状によって判断が異なります。感染が疑われる環境に接触した後に発熱、強い倦怠感、筋肉痛などが現れた場合は、医療機関に相談し、ネズミとの接触状況を伝えてください。呼吸困難や急激な体調悪化がある場合は、速やかに救急医療につながる必要があります。
ハンタウイルスは日本のネズミと無関係ではありません。しかし、2026年10月28日時点で確認できる公的情報では、腎症候性出血熱は1999年以降、国内の患者発生が報告されておらず、ハンタウイルス肺症候群についても国内患者の報告はありません。
海外で発生したアンデスウイルスの集団感染は、人から人への限定的な感染が起こり得ることを示しましたが、WHOは2026年7月2日に当該事例の封じ込めを公表しています。これを日本国内のネズミによる感染拡大と混同しないことが重要です。
家庭でネズミを見かけた場合は、フンや尿を乾いたまま掃かず、適切に湿らせて清掃すること、食品を密閉して保管すること、侵入経路を塞ぐことを優先しましょう。症状が出た場合は、ネズミとの接触歴や海外渡航歴を医療機関に伝えることも大切です。
今後の感染状況を確認する際は、厚生労働省と国立健康危機管理研究機構の公表情報を判断の基準にしてください。海外の感染ニュースを正しく理解しながら、身近な衛生管理を着実に続けることが、必要以上の不安を避け、現実的なリスクに備えるための基本です。