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ゴキブリの名前の由来は?「御器噛り」と1884年の誤植説を2026年に徹底解説

土屋 航平 土屋 航平 • 更新: • 公開: • 読了約 15 分
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ゴキブリの名前の由来は、食器を意味する「御器(ごき)」と、「かぶり」に関係するとされています。江戸時代には「ゴキカブリ」や「御器噛り」と呼ばれ、明治時代になると、現在と同じ「ゴキブリ」という表記が文献に登場しました。では、なぜ「ゴキカブリ」から「カ」が消えたのでしょうか。

その背景として知られるのが、1884年刊行の『生物学語彙』をめぐる誤植説です。ただし、文献に「ゴキブリ」と記された時期と、その名前が生まれた経緯は、厳密には分けて考える必要があります。国立国会図書館の書誌情報、国語辞典編纂者の飯間浩明氏による考察、江戸時代の百科事典などを手掛かりに、語源から昔の呼び名、方言まで整理します。

【結論】ゴキブリの名前は「御器噛り」に由来する?

ゴキブリ名前の由来

ゴキブリの語源として広く紹介されているのが、「御器噛り(ごきかぶり)」という言葉です。「御器」は食事を盛る椀などの器を指し、「かぶり」は古い語形で「かじる」「かぶりつく」といった意味に結び付けて説明されます。

つまり、食事を終えた器に残った食べ物をあさる虫というイメージが、名前の由来になったと考えられているのです。食器そのものを食べるという意味ではありません。食べ物や台所の残り物と結び付いた、生活に身近な命名だったといえます。

現在の「ゴキブリ」という名称からは想像しにくいものの、元の言葉をたどると、当時の人々が虫をどのように観察し、身近な道具や暮らしの言葉で表現していたのかが見えてきます。

なお、語源の説明には「御器噛り」のほか、「御器覆り(ごきかぶり)」と解釈する説もあります。食器にかぶさる、あるいは器を覆う虫という捉え方です。現代では「御器噛り」という説明が広く知られていますが、古い言葉の解釈には表記や意味の違いもあるため、語源の説明を一つの確定した文章として扱うのは慎重であるべきです。

【江戸時代の記録】1712年の『和漢三才図会』に登場する「五器齧」

ゴキブリの名前の歴史を調べるうえで重要なのが、寺島良安が編纂した百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』です。同書は正徳2年(1712年)に成立したことで知られ、動植物から道具、地理まで幅広い事物を解説しています。

江戸時代のゴキブリに関する記述では、「五器齧」などの表記が確認できます。また、同書には「蜚蠊(あぶらむし)」という呼び方も登場します。現在の「ゴキブリ」という表記が一般化する以前から、複数の名前が使われていたことを示す資料です。

ここで注目したいのは、現在の名称が突然生まれたわけではないという点です。食器にまつわる「ゴキカブリ」に近い呼び名は江戸時代の文献に見られ、虫を指す言葉には「あぶらむし」などの別名もありました。

ただし、古い文献に登場する名称が、現代の分類学でいう特定のゴキブリ種だけを指していたとは限りません。当時は現在ほど生物の分類や和名が統一されていなかったため、記載された生態や文脈も併せて読む必要があります。

【最大の謎】「ゴキカブリ」から「カ」が消えたのは誤植だった?

「ゴキブリ 語源」を調べると、しばしば登場するのが誤植説です。元の「ゴキカブリ」から「カ」が抜けた形で印刷され、その表記が後世に受け継がれたという説明です。

鍵となるのは、明治17年(1884年)7月刊行の岩川友太郎編『生物学語彙』です。国立国会図書館サーチの書誌情報によると、同書は東京の集英堂から刊行された生物学関係の用語集です。国語辞典編纂者の飯間浩明氏は、同書に「ゴキブリ」という振り仮名が見られることを紹介し、これを書物に現れた最古の例としています。

誤植説では、本来「ゴキカブリ」とすべきところが「ゴキブリ」と記載され、その表記が後の書籍にも引き継がれたと考えます。明治22年(1889年)の『中等教育 動物学教科書』にも「ゴキブリ」の用例が確認でき、明治期の出版物に現在の名称が現れていることは、文献からたどれる事実です。

一方、コトバンク所収の『世界大百科事典』では、明治時代の昆虫学者・松村松年が1898年刊行の『日本昆虫学』で「ゴキカブリ」を「ゴキブリ」と誤記したことに端を発するという説明も紹介されています。誤植が起きた時期や経緯については、資料によって説明に違いがあるのです。

このため、「1884年の本にゴキブリという表記がある」という話と、「1884年に起きた誤植が名前の起源だった」という話は区別する必要があります。前者は文献の用例に関する指摘であり、後者は、その表記が生まれた理由についての説明です。

飯間氏は、方言の分布も検討し、「ゴキカブリ」から音が自然に脱落したという説明より、誤植説のほうが合理的だと論じています。ただし、過去の口頭語をすべて把握できるわけではなく、誤植の瞬間を直接証明する記録と、現存する最古の用例は同じものではありません。誤植説は有力な説明ですが、文献に確認できる事実と推定される経緯を分けて理解することが大切です。

【年表で整理】ゴキブリの名前はいつ、どう変わった?

昔の呼び名から現在の表記までを時系列で整理すると、名称の変化と、誤植説が生まれた背景を把握しやすくなります。

時期・年代 文献・呼び名 確認できる内容
平安時代の古名 阿久多牟之(あくたむし)、都乃牟之(つのむし) 古い辞書類などに見られるゴキブリの古名として紹介される。
正徳2年(1712年) 『和漢三才図会』 「五器齧」などの表記や、「蜚蠊(あぶらむし)」という呼び方が見られる。
明治17年(1884年) 岩川友太郎編『生物学語彙』 「ゴキブリ」の表記が確認される、書物における最古の例とされる。
明治22年(1889年) 『中等教育 動物学教科書』 「ゴキブリ」の用例が確認できる。
明治31年(1898年) 松村松年『日本昆虫学』 一部の辞典では、この書籍における誤記を現在の名称の起点として説明している。

この年表から分かるのは、江戸時代には「ゴキカブリ」に結び付く呼び名が文献に残り、明治期には「ゴキブリ」という表記が確認できるということです。現在の名称が広く定着するまでの過程については、出版物の影響や地域ごとの言葉の違いも考慮する必要があります。

特に1884年と1898年は、どちらか一方だけを見てしまうと誤解が生じやすい年代です。1884年は現存文献で確認される早い用例、1898年は一部の辞典が誤記説の起点として挙げる年代です。両者を区別すれば、誤植説の内容をより正確に理解できます。

【昔の呼び名と漢字】アクタムシ・油虫・蜚蠊は何を意味する?

ゴキブリには、「ゴキカブリ」以外にもさまざまな呼び名があります。古い言葉を調べると、虫の姿や生息場所、人間の暮らしとの関係が名前に反映されていることが分かります。

アクタムシ(芥虫)は、ゴミやちりを意味する「芥(あくた)」に由来すると説明される名前です。ゴミのたまる場所などにいる虫というイメージと結び付いています。平安時代の古名として紹介されることもあり、現在の「ゴキブリ」という呼び名よりも古い言葉の歴史を伝えています。

ツノムシ(角虫)も、古い呼び名の一つです。ただし、名称の由来を触角の形に求めるのか、ほかの昆虫との形態上の類似に求めるのかについては、明確に一つの説明に定まっているわけではありません。

アブラムシ(油虫)は、江戸時代の文献にも見られる呼び名です。光沢のある体表と結び付けて説明されることがありますが、歴史的には、現在のゴキブリだけを指すとは限りません。植物に付くアブラムシ(アリマキ)と同じ呼び名が使われるため、古い文章を読む際には注意が必要です。

蜚蠊(ひれん)は、ゴキブリを指す漢字表記として知られています。漢字で書くと難しく見えますが、古い文献では「蜚蠊」に「あぶらむし」という読みを当てている例もあります。現代の漢字表記をそのまま過去に当てはめず、当時の読み方や文脈を確認が必要です。

このように、昔の呼び名は一つではありませんでした。現在の名称が一般化する以前は、同じ昆虫を異なる言葉で呼んだり、同じ言葉が複数の虫を指したりすることもあったのです。

【方言から分かること】ゴッカブリ・アマメ・キガネムシもゴキブリ?

ゴキブリの語源を考えるうえで、方言も重要な手掛かりになります。国語辞典編纂者の飯間浩明氏が紹介した『現代日本語方言大辞典』の分布情報では、「ゴッカブリ」に近い語形が関西以西に広く見られます。「ボッカブリ」「ゴッカブイ」など、地域によって音や語形が異なる呼び方もあります。

こうした方言は、江戸時代の「御器かぶり」という呼び名が、単なる辞書上の言葉ではなく、実際の生活の中で使われてきたことを考える材料になります。大阪を舞台にしたNHKのドラマ『極楽日記』の台本にも「ゴッカブリ」という言葉が登場しており、古い呼び名に近い形が後世にも残っていたことがうかがえます。

ほかにも、地域によっては「アマメ」や「キガネムシ」などの呼び方が知られています。農林水産・食品産業技術振興協会の昆虫解説資料でも、ゴキブリの昔の呼び名として「あぶら虫」や「ごきかぶり」が紹介されています。

ただし、方言の存在だけで誤植説が完全に証明されたり、否定されたりするわけではありません。方言として採録された年代、地域的な分布、書物に現れた最古の用例は、それぞれ異なる種類の証拠です。方言の資料を読む際は、「その地域でどのような呼び方が使われたか」と「その呼び方がいつ生まれたか」を区別する必要があります。

方言が示しているのは、全国で最初から一つの名前が使われていたわけではないということです。ゴキブリという名称の歴史には、地域ごとの言葉の違いと、明治期の出版物を通じた表記の定着という、二つの側面があると考えられます。

【プロの結論】ゴキブリの語源を調べるときの3つの判断基準

ゴキブリの名前の由来を正確に理解するには、語源の説明と、その言葉が文献に登場した時期、そして現代の名称として定着した経緯を分けて考えることが大切です。

第一に、語源とされる言葉の意味を確認すること。「御器噛り」は、食器に残った食べ物をあさる虫という説明に結び付いています。ただし、古い表記には「五器齧」などの異同があり、「御器覆り」と解釈する説もあります。漢字だけを見て意味を一つに決めるのではなく、古い文献の記述を確認が必要です。

第二に、最古の用例と語源の成立を混同しないこと。1884年の『生物学語彙』に「ゴキブリ」という表記が見られることは、文献上の重要な事実です。しかし、その一冊だけで「その年に誤植が起き、そこから言葉が生まれた」とすべてを証明できるわけではありません。1898年の『日本昆虫学』を起点とする説明があることも、併せて押さえておきたい点です。

第三に、辞書・古典・方言資料を照らし合わせること。国立国会図書館の書誌情報は書籍の刊行時期を確認するうえで役立ち、国語辞典や百科事典は語義と用例の整理に役立ちます。加えて、方言資料を見れば、書物に記録された言葉が地域の生活の中でどのように使われていたかを考えられます。

この三つの視点を持つと、ゴキブリの名前は単なる面白い雑学ではなく、日本語の変化、出版物の影響、地域の言葉の歴史が交差する事例として見えてきます。

【ゴキブリ名前の由来】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:ゴキブリの名前の由来は何ですか?
A1:一般的には、食器を意味する「御器」と、「かじる」ことに結び付く「かぶり」を組み合わせた「御器噛り(ごきかぶり)」に由来すると説明されています。食器に残った食べ物をあさる習性を表した名前と考えられています。

Q2:「ゴキカブリ」から「ゴキブリ」になったのは誤植が原因ですか?
A2:誤植説が有力な説明として知られています。1884年刊行の『生物学語彙』には「ゴキブリ」の表記が確認できます。ただし、最古の用例が見つかったことと、その表記が誤植によって生まれたことの直接的な証明は別の問題です。

Q3:ゴキブリを漢字で書くと「蜚蠊」ですか?
A3:「蜚蠊(ひれん)」は、ゴキブリを指す漢字表記として知られています。『和漢三才図会』などの古い文献には「蜚蠊」に「あぶらむし」という読みを当てる例もあります。

Q4:ゴキブリの昔の呼び名には何がありますか?
A4:「ゴキカブリ」「あぶらむし」「アクタムシ」「ツノムシ」などが知られています。地域によっては「ゴッカブリ」「ボッカブリ」「アマメ」「キガネムシ」などの呼び方もあります。

Q5:『和漢三才図会』は何年の書物ですか?
A5:寺島良安が編纂した百科事典で、正徳2年(1712年)に成立したことで知られています。ゴキブリに関する古い呼び名を調べる際の重要な資料の一つです。

ゴキブリの名前の由来は、食器を意味する「御器」と「かぶり」に関係する「御器噛り」という呼び名にさかのぼるとされています。江戸時代の『和漢三才図会』には「五器齧」などの表記が見られ、明治17年(1884年)の『生物学語彙』には、現在と同じ「ゴキブリ」という表記が確認できます。

「ゴキカブリ」から「カ」が消えた理由としては誤植説が広く知られていますが、1884年の用例と、誤植が起きた経緯を直接証明することは別です。1898年の『日本昆虫学』を起点とする説明もあるため、資料による違いを踏まえて理解する必要があります。

また、アクタムシ、ツノムシ、あぶらむし、蜚蠊といった昔の呼び名や、地域ごとの方言をたどると、現在の名称が定着するまでには複数の言葉が使われていたことが分かります。語源を調べるときは、名前の意味、文献上の初出、実際の普及過程を切り分けること。それが、ゴキブリの名前にまつわる誤解を避け、言葉の歴史を正確に読み解くための判断基準です。

主な参照資料:国立国会図書館サーチ『生物学語彙』、コトバンク所収『世界大百科事典』『精選版 日本国語大辞典』、飯間浩明「G」(新潮社「考える人」)、明石書店 webあかし「ゴキブリのフォークロア」、農林水産・食品産業技術振興協会の昆虫解説資料。

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トレンドリサーチャー 土屋 航平
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