日本の勲章制度で最高位に位置づけられる「大勲位菊花章頸飾(だいくんいきっかしょうけいしょく)」。1888年(明治21年)に制定されたこの勲章は、金色の鎖に菊花や菊葉、明治の二文字を組み合わせた独特の意匠を持ち、国家への特別な功労を象徴する栄典として知られています。
戦後の受章者には吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の各元首相が名を連ね、外国の国王や大統領にも授与されてきました。2026年10月時点で参照できる内閣府の公表一覧では、国内の首相経験者に対する直近の授与は2022年の安倍晋三氏、外国人では2024年6月のチャールズ3世英国国王への授与が確認できます。制定の経緯から受章条件、菊花大綬章との違いまで、公式資料に基づいて整理します。
【大勲位菊花章頸飾とは】日本の最高位の勲章、その位置づけを解説

大勲位菊花章頸飾は、国家や公共に対する功労を表彰する日本の栄典制度において、最高位の勲章に位置づけられるものです。所管する内閣府賞勲局は、これを「大勲位菊花章」の一つとして紹介しています。
名称に含まれる「頸飾」は、首に掛ける装飾品を意味します。一般的な胸章や肩から掛ける大綬とは異なり、金色の連環で構成された首飾り型の勲章である点が大きな特徴です。英語では「Collar of the Supreme Order of the Chrysanthemum」と表記されます。
大勲位菊花章には、首に掛ける「大勲位菊花章頸飾」と、肩から大綬を掛けて着用する「大勲位菊花大綬章」があります。両者は別々の勲章制度というより、同じ最高位の勲章体系を構成する異なる形式です。頸飾は特に高い栄誉を示すものとして扱われています。
ここで押さえておきたいのは、頸飾が単に歴史の古い装飾品ではないという点です。受章者は国内の首相経験者だけでなく、外国の国王や国家元首にも及びます。国内政治における功績の顕彰と、外国との外交関係における栄典という二つの側面を持っているのです。
【制定の経緯】1888年に誕生した背景と明治期の栄典制度
大勲位菊花章の歴史を理解するには、頸飾だけでなく、大勲位菊花大綬章の制定までさかのぼる必要があります。内閣府と国立公文書館の資料によると、1876年(明治9年)に大勲位菊花大綬章が制定され、1888年(明治21年)1月4日に勅令第1号によって大勲位菊花章頸飾の制度が設けられました。
明治政府は近代国家の形成を進めるなかで、国家への功労を顕彰する制度を整備しました。1888年の制度拡充では、頸飾のほか、宝冠章や瑞宝章なども設けられています。国立公文書館の栄典制度の年表にも、この時期が日本の勲章制度を整備する重要な節目として記録されています。
制定時の法令「宝冠章及大勲位菊花章頸飾ニ関スル件」第2条には、大勲位に叙せられた者に特別に頸飾を授与する旨が定められました。つまり、一般的な功績表彰とは異なり、極めて限定的な栄誉として制度化されたのです。
その後、2003年には栄典制度の改革に伴い、勲章の授与基準や形状などが整理されました。現在の制度を調べる際には、明治期の制定法令と、内閣府が公表する現行の勲章制度・授与手続の両方を確認が必要です。
【デザインと意味】菊花・菊葉・「明治」の文字に込められた意匠
大勲位菊花章頸飾の意匠には、日本の国家的象徴と制定当時の歴史が組み込まれています。内閣府の「勲章の種類(大勲位菊花章)」では、菊花や菊葉、日章、旭光などのデザインについて説明しています。
中央の勲章部分は、日の丸を象徴する日章を中心に光線を配し、その周囲を菊花と菊葉で飾った構成です。内閣府は、旭光のデザインについて「旭日昇天」の意気を示すものと説明しています。日本の国旗を想起させる日章と、菊の意匠が組み合わさることで、国家的な栄誉を表すデザインになっています。
頸飾を特徴づけるのは、鎖を構成する連環に施された「明」「治」の二文字です。これらは古篆字(こてんじ)と呼ばれる古い篆書体で表現されています。制定された時代の元号を意匠に取り込んでいる点は、この勲章が明治期の国家制度の整備と深く結びついていることを示しています。
現行の形状を定める内閣府令では、中央部分は円形で、菊の花は金色、葉は緑色の七宝で表現されます。中央部分の直径は39ミリメートル、連環の寸法は長径28ミリメートル、短径24ミリメートルです。華やかな外観だけでなく、細部まで法令に基づいて仕様が定められています。
【歴代受章者と2026年最新】吉田茂からチャールズ3世まで
戦後の受章者を確認する際の基礎資料は、内閣府賞勲局が公開する「大勲位菊花章頸飾受章者一覧(戦後)」です。同一覧は2026年6月現在の情報を掲載しており、日本人の首相経験者と外国人受章者を分けて確認できます。
国内の首相経験者では、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の4人が記載されています。吉田、佐藤、中曽根の3氏は、先に大勲位菊花大綬章を受章し、その後に頸飾を授与された人物です。一方、安倍氏は2022年7月8日付で大綬章と頸飾を同時に追贈されました。
| 受章年月日 | 受章者 | 経緯・注目点 |
|---|---|---|
| 1967年10月20日 | 吉田茂 | 大勲位菊花大綬章を受章した後、頸飾を追贈。 |
| 1975年6月3日 | 佐藤栄作 | 大綬章の受章後、頸飾を追贈。 |
| 2019年11月29日 | 中曽根康弘 | 大綬章の受章後、没後に頸飾を追贈。 |
| 2022年7月8日 | 安倍晋三 | 大勲位菊花大綬章と頸飾が同時に追贈された。 |
| 2017年3月31日 | フェリペ6世 | スペイン国王。外国人受章者の一人。 |
| 2017年11月21日 | アンリ大公 | ルクセンブルク大公国の大公として受章。 |
| 2024年6月14日 | チャールズ3世 | 英国国王。内閣府の外国人受章者一覧に記載された近年の受章例。 |
この表は戦後の国内受章者と、近年の動向を理解するうえで参考になる外国人受章者を抜粋したものです。外国人受章者の一覧には、ほかにもエリザベス2世英国女王やスウェーデン、オランダなどの国王・女王、各国の国家元首が記載されています。
2026年の動向を確認する際には、同じ大勲位菊花章に属する大綬章と頸飾を混同しないことも大切です。内閣府の大綬章受章者一覧には、2026年5月のフィリピン大統領フェルディナンド・マルコス氏や、同年6月のオランダ皇太子アマリア殿下、ベルギー王女エリザベート殿下への授与が記載されています。しかし、これらは大綬章の記録であり、頸飾の受章者一覧とは別です。
したがって、2026年の最新状況を正確に把握するには、勲章名だけで検索するのではなく、内閣府の「大勲位菊花章頸飾受章者一覧」と「大勲位菊花大綬章受章者一覧」を照合する必要があります。
【菊花大綬章との違い・受章条件・授与の仕組み】何が特別なのか
大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章は、名称が似ているため混同されがちですが、着用方法と授与の位置づけが異なります。頸飾は首に掛ける鎖状の勲章であるのに対し、大綬章は右肩から左脇に掛ける幅広い綬と胸の副章を組み合わせて着用します。頸飾は大勲位菊花章のなかでも特に高い栄誉を示す形式です。
内閣府の資料や関連法令に基づくと、両者の違いは次のように整理できます。
- 大勲位菊花章頸飾:首に掛ける首飾り型の勲章。特別な栄誉を示し、国内外の限られた人物に授与される。
- 大勲位菊花大綬章:肩から大綬を掛けて着用する勲章。頸飾とは別の形式で、受章者一覧も独立して公表されている。
- 両者の関係:吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘の3氏は大綬章の受章後に頸飾を追贈された。安倍晋三氏は両方を同時に追贈された。
では、受章条件はどのように決まるのでしょうか。制定時の法令は、頸飾について「大勲位に叙せられた者に特別に賜う」という趣旨を定めています。ただし、一般の叙勲のように、勤続年数や職歴だけで機械的に受章が決まる制度ではありません。
実際の受章者には、首相経験者や外国の国王、国家元首などが含まれています。国家への特別な功労や外交上の位置づけを踏まえた、極めて限定的な栄典として運用されていることが分かります。一般市民が通常の叙勲と同じ感覚で申請し、所定の条件を満たせば受章できるものではありません。
授与の手続については、内閣府が公表する「勲章、記章、褒章等の授与及び伝達式例」が参考になります。同規定では、大勲位菊花章頸飾などの勲章は、原則として宮中で授与式を行い、天皇が親授するものとされています。一方、外国人に対する勲章は内閣府賞勲局を通じて所管大臣が伝達する方式が基本で、事情に応じて宮中での授与に準じた形式を取ることも可能です。
また、「追贈」と「生前受章」も区別する必要があります。吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘の3氏は、すでに大綬章を受章した後、亡くなってから頸飾を授与されました。安倍氏については、2022年7月8日に大綬章と頸飾が同時に追贈されています。この違いを押さえることで、歴代受章者の記録を正確に読み解けます。
【プロの結論】大勲位菊花章頸飾を正しく理解する3つの視点
大勲位菊花章頸飾を理解するうえで、単に「日本で一番格式が高い勲章」と覚えるだけでは十分ではありません。歴史、意匠、授与の仕組みを組み合わせて見ることで、その位置づけが明確になります。
第一に、1888年の制定は、近代日本が国家的な栄典制度を整備した歴史の一部です。菊花や菊葉、日章、「明」「治」の古篆字は、装飾的な要素であると同時に、制定当時の国家観や歴史的背景を伝える意匠でもあります。
第二に、頸飾と大綬章は、名称が似ていても別の形式として記録を確認する必要があります。特に2026年の最新情報を調べる際は、同じ大勲位菊花章に属する大綬章の受章ニュースを、頸飾の新規受章と誤認しないことが重要です。
第三に、受章者の一覧は国内政治史だけでなく、外交史を読み解く資料でもあります。吉田、佐藤、中曽根、安倍の各元首相に加え、外国の国王や国家元首が記載されていることから、この勲章が国家的功労の顕彰と国際的な儀礼の両面を担っていることが分かります。
【大勲位菊花章頸飾】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:大勲位菊花章頸飾は日本で最も位の高い勲章ですか?
A1:はい。内閣府は大勲位菊花章を日本の最高位の勲章と位置づけており、そのなかで頸飾は特に高い栄誉を示す形式です。
Q2:大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章は何が違いますか?
A2:頸飾は首に掛ける鎖状の勲章、大綬章は肩から大綬を掛けて着用する勲章です。両者は同じ大勲位菊花章の体系に属しますが、形状と授与の記録が異なります。
Q3:2026年現在、直近の受章者は誰ですか?
A3:内閣府の公開一覧では、国内の首相経験者としては2022年7月8日付で追贈された安倍晋三氏が直近の受章者です。外国人では、2024年6月14日に受章したチャールズ3世英国国王が、同一覧に記載された近年の受章例です。
Q4:一般の人が大勲位菊花章頸飾を申請することはできますか?
A4:一般の人が通常の叙勲と同じ手続で申請し、条件を満たせば受章できる制度ではありません。国家への特別な功労などを踏まえ、政府の栄典制度に基づいて授与される極めて限定的な勲章です。
Q5:安倍晋三氏はなぜ大勲位菊花章頸飾を受章したのですか?
A5:内閣府の受章者一覧では、2022年7月8日付で大勲位菊花大綬章と頸飾が同時に追贈されたことが記録されています。これは、首相経験者としての功績を顕彰する栄典上の措置として位置づけられています。
大勲位菊花章頸飾は、1888年に制定された日本の最高位の勲章体系を象徴する栄典です。日章や旭光、菊花、菊葉、「明」「治」の古篆字を組み合わせた意匠には、明治期の制度整備と歴史的背景が反映されています。
戦後の国内受章者として記録される吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の各元首相に加え、外国の国王や国家元首も受章しています。2026年の最新状況を調べる際は、内閣府賞勲局の「大勲位菊花章頸飾受章者一覧(戦後)」を基準にし、大勲位菊花大綬章の受章記録と区別することが大切です。
勲章の格式だけでなく、制定の経緯、意匠、受章者、授与の仕組みを併せて見ることで、大勲位菊花章頸飾が日本の歴史と外交において果たしてきた役割を、より正確に理解できます。