箱根観光の象徴として親しまれている芦ノ湖のクルーズですが、現地を訪れた旅行者の間で「海賊船と遊覧船は何が違うのか」「手元のフリーパスで乗れるのはどちらなのか」という混乱が後を絶ちません。広大な湖面を行き交う船には、全く異なる運行事業者、歴史的背景、そして乗船場所が存在しています。
2026年現在の芦ノ湖水上交通は、小田急グループが運営する「箱根海賊船」と、富士急グループの箱根遊船株式会社が運航する「箱根遊船(旧・箱根芦ノ湖遊覧船)」の2陣営に大別されます。かつての西武グループ(伊豆箱根鉄道)からの事業移管を経て勢力図がどう変わったのか、乗り場の位置関係からお得な運賃・割引の適用条件まで、現地の最新実態をわかりやすく整理して解説します。
【最大の違い】小田急グループ「海賊船」vs 富士急「遊覧船」の勢力図

芦ノ湖を舞台に運航されている2つの船は、観光客向けのアトラクションという点では似ていますが、母体となる企業グループと運行形態が根本から異なります。一般に「海賊船」と呼ばれるものは、小田急グループの箱根観光船株式会社が運航する観光船です。17〜18世紀のヨーロッパ戦艦を精巧に模したド派手な外観が特徴で、インバウンド観光客を中心に絶大な知名度を誇ります。
一方、双胴船をはじめとするスマートな白色の船体で運航されているのが、富士急グループの箱根遊船株式会社による遊覧船です。こちらは湖上からの富士山や箱根神社平和の鳥居を落ち着いて眺めるクルージングや、湖上周遊を主軸に設計されています。両者は運行ダイヤも乗船料金体系も独立しており、乗り場も隣接しつつ完全に分かれているため、現地で乗り間違えるトラブルが多発しています。
【歴史的真相】伊豆箱根鉄道からの移管と「箱根山戦争」の現在地
なぜ同じ芦ノ湖に2系統の船が並立しているのかを紐解くと、かつて日本の観光史に刻まれた「箱根山戦争」に行き着きます。戦後、箱根の観光開発を巡って小田急電鉄と西武鉄道グループが激しい主導権争いを繰り広げました。湖上交通においても小田急側の箱根観光船と、西武グループ傘下の伊豆箱根鉄道がそれぞれ独自の航路網と桟橋を築き、長年にわたって競合関係を続けてきた経緯があります。
しかし、近年の観光需要の変化や事業再編の流れを受け、伊豆箱根鉄道は芦ノ湖での遊覧船事業および関連施設を富士急行へと譲渡しました。事業を引き継いだ富士急グループは箱根遊船株式会社を設立し、一時期「箱根芦ノ湖遊覧船」のブランドを掲げた後、富士急ならではの観光ノウハウを注入したリブランディングを断行しました。かつての小田急対西武という鉄道資本の代理戦争は、小田急対富士急という新たな観光連携の構図へと移り変わっています。
【一覧比較表】芦ノ湖海賊船と箱根遊船(遊覧船)のスペック・料金対照
旅行計画を立てるうえで最も重要な、乗り場、主要航路、割引パスの適用可否、所要時間を一覧表で比較・整理しました。
| 項目 | 小田急系:箱根海賊船(箱根観光船) | 富士急系:箱根遊船(旧・箱根芦ノ湖遊覧船) |
|---|---|---|
| 運営企業 | 箱根観光船株式会社(小田急グループ) | 箱根遊船株式会社(富士急グループ) |
| 船の特徴・外観 | ヨーロッパ帆船・海賊船風(クイーン芦ノ湖など) | 双胴船型(はこね丸など)、水戸岡鋭治氏デザイン船「颯」 |
| 主要発着港 | 桃源台港、元箱根港、箱根町港 | 元箱根港、箱根関所跡港、箱根園港、湖尻港 |
| 箱根フリーパス | 利用可能(追加料金なしで乗り放題) | 利用不可(別途乗船券の購入が必要) |
| 独自の割引・パス | 小田急系周遊券各種、海賊船・ロープウェイ1日きっぷ | 富士急グループ提携割引、箱根旅助け、WEB前売券 |
| 主な片道所要時間 | 桃源台港〜元箱根港:約25分〜40分 | 箱根関所跡港〜元箱根港〜箱根園港:約20分〜40分 |
| 特別船室・上位席 | あり(特別船室は別途追加料金が必要) | あり(便や船型により展望デッキ等の設定あり) |
【港のトラップ】元箱根港と箱根町港の違い&乗り場トラップを回避する方法
旅行者が最も混乱するのが港の名称と地理的配置です。特に注意すべきは「元箱根港」と「箱根町港/箱根関所跡港」の位置関係です。
まず元箱根エリアでは、小田急系の海賊船と富士急系の遊覧船がどちらも「元箱根」という地名を冠した桟橋を持っています。両乗り場は徒歩数分の距離に近接していますが、窓口も改札も完全に別です。「元箱根から船に乗る」とだけ決めて現地へ向かうと、手持ちのチケットが使えない桟橋へ並んでしまう原因になります。
さらに南側のエリアでは名称自体が異なります。小田急海賊船が発着するのは「箱根町港」ですが、富士急遊覧船が発着するのは「箱根関所跡港」です。北側の拠点も、海賊船は箱根ロープウェイと直結する「桃源台港」であるのに対し、遊覧船は少し離れた「湖尻港」および駒ヶ岳ロープウェー至近の「箱根園港」を拠点としています。目的地や接続する乗り物がどちらの系列かを把握しておくことが、タイムロスを防ぐ最大のポイントです。
【所要時間と実態】乗船ルート別に見るクルーズの選び方
移動効率と観光目的によって、選ぶべき航路は明確に分かれます。箱根ゴールデンコースと呼ばれる王道ルート(箱根湯本〜強羅〜大涌谷〜桃源台〜元箱根・箱根町〜箱根湯本)を効率よく一筆書きで回るなら、箱根海賊船が圧倒的に便利です。桃源台港でロープウェイから段差なしのスムーズな乗り継ぎができ、元箱根港または箱根町港まで約25分〜40分で抜けられます。
これに対して、箱根神社への参拝や箱根園水族館、駒ヶ岳ロープウェーへの立ち寄りを重視する場合は、箱根遊船に分があります。箱根園港に直接アプローチできる唯一の水上ルートであるため、車や路線バスの渋滞を避けて複合リゾート施設へ移動する手段として極めて優秀です。また、どこかへ移動するのではなく「芦ノ湖をぐるりと一周して元の場所に戻る」純粋な周遊クルーズを楽しみたい場合も、遊覧船の周遊コースが充実しています。
【プロの結論】2026年最新の乗車券選びと失敗しない判断基準
両者のサービス実態を踏まえると、どちらを選ぶべきかは「旅程全体の移動手段」によって決まります。
新宿や小田原から小田急線を利用し、登山電車・ケーブルカー・ロープウェイ・登山バスを組み合わせる旅行者は、「箱根フリーパス」を購入して海賊船に乗るのがコストパフォーマンス面で唯一の正解です。海賊船の普通船室運賃はフリーパスに最初から含まれているため、余計な出費をゼロに抑えられます。
一方で、マイカーやレンタカーで箱根を訪れるドライブ客、あるいは伊豆方面からのアプローチで西武・富士急系の周遊券を活用する旅行者、箱根園を旅の主目的に据えるファミリー層には、箱根遊船のWEB割引チケットや周遊券の購入が適しています。天候による濃霧や強風で運航状況が刻一刻と変化するため、当日の朝に出航可否を各社公式サイトで確認してからチケットを発券する判断が賢明です。
【芦ノ湖海賊船】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:箱根フリーパスで箱根遊船(旧・芦ノ湖遊覧船)に乗ることはできますか?
A1:乗船できません。箱根フリーパスで利用できるのは小田急グループが運航する「箱根海賊船」のみです。富士急グループの箱根遊船に乗る場合は、現地窓口またはWEBで別途乗船券を購入する必要があります。
Q2:海賊船の「特別船室」とは何ですか?乗る価値はありますか?
A2:船の前方や上層に設置されたワンランク上の専用スペースです。普通船室よりも混雑が緩和され、ゆったりとしたソファ席や専用の展望デッキから遮るもののない景色を楽しめます。片道数百円程度の追加料金が必要ですが、観光ピーク時の混雑回避には非常に実用的です。
Q3:強風や悪天候の場合、海賊船や遊覧船は運休しますか?
A3:濃霧による視界不良や強風・高波が発生した場合、安全確保のため運休や航路変更(区間運休)が発生します。小田急海賊船と富士急遊覧船では運航基準や船体構造が異なるため、一方が運休していてももう一方が動いているケースもあります。悪天候時は双方の公式運航状況をリアルタイムで確認してください。
芦ノ湖を渡る2つの船は、単なる乗り物の違いを超えて、利用する交通パスや立ち寄り先と密接に結びついています。王道ルートを一筆書きで巡るなら小田急グループの「箱根海賊船」、箱根園周辺のレジャー施設や落ち着いた周遊クルーズを求めるなら富士急グループの「箱根遊船」という明確な使い分けが成り立っています。
港の名称や手元のフリーパスの適用範囲を事前に正しく把握しておくことで、現地での無駄な移動や乗り間違いは確実に防げます。旅のスケジュールと周遊ルートに合わせて最適な船を選び、芦ノ湖ならではの絶景クルージングを満喫してください。