「女性にAEDを使うと、服を脱がせることになってトラブルになるのではないか」「ブラジャーの金具でやけどを負わせたり、訴えられたりする可能性があるのではないか」。こうした不安から、女性が倒れていてもAEDの使用をためらうべきだという情報が、SNSなどで繰り返し話題になっています。
しかし、総務省消防庁の応急手当講習や日本心臓財団の救命ガイド、日本の救急医療に関する研究が示しているのは、性別を理由に救命処置を避けるのではなく、必要な処置を速やかに行いながらプライバシーにも配慮するという考え方です。2026年10月時点の最新情報を踏まえ、女性へのAED使用率の男女差、衣服やブラジャーの正しい扱い、胸骨圧迫と119番通報の手順を整理します。
【結論】「AEDで女性を助けないほうがいい」は正しいのか?

結論から言えば、女性であることを理由にAEDの使用を避けるべきではありません。心停止が疑われる人に対して、救命処置をためらうことは、助かる可能性を損なうおそれがあります。
AED(自動体外式除細動器)は、心臓が心室細動などの危険な状態になったとき、電気ショックによって正常なリズムを取り戻すのを助ける医療機器です。電源を入れると音声で操作方法を案内し、心電図を自動解析して、電気ショックが必要かどうかを判断します。
公益財団法人日本心臓財団の「AEDで助かる命」では、119番通報とAEDの要請、胸骨圧迫、電気ショックを救命の基本として紹介しています。AEDは、電気ショックが必要ないと判断した場合には、通常、その指示に従ってショックを行わない仕組みです。
つまり、救助者が医師のように心臓の状態を診断したり、電気ショックの適否を自分で判断したりする必要はありません。倒れている人の反応や呼吸を確認し、必要な処置を始め、機器の音声指示に従えばよいのです。
女性へのAED使用をためらう理由としては、胸部を露出させることへの抵抗感、異性の身体に触れることへの不安、法的トラブルへの懸念などが挙げられます。こうした心配を軽視する必要はありませんが、救命を優先しながら対処できる問題と、救命処置そのものを避ける理由は区別しなければなりません。
意識がなく、普段どおりの呼吸が確認できない人がいたら、性別にかかわらず119番通報、胸骨圧迫、AEDの使用を進めることが基本です。呼吸があるか判断できない場合や、しゃくり上げるような不規則な呼吸しかない場合も、119番の通信指令員の指示を受けながら対応してください。
【男女差の実態】女性へのAED使用率はなぜ低いのか?
女性へのAED使用をめぐる議論は、単なるネット上の意見の対立ではありません。日本の院外心停止に関する研究では、女性が男性よりも市民による除細動を受けにくいという男女差が報告されています。
2023年に医学誌「JAMA Network Open」に掲載された日本全国の研究では、2005年から2020年までに発生した院外心停止のうち、市民に目撃された心原性の症例354,409人を分析しました。この研究では、公共の場で使用されるAEDによる除細動を受けた割合は、男性が3.2%、女性が1.5%でした。
この数値は、分析対象となったすべての心原性院外心停止のうち、市民による除細動を受けた割合です。AEDが必要なすべての場面での成功率を表す数値ではありません。それでも、男女間で救命処置の受けやすさに差があることを考えるうえで重要な結果です。
また、2019年に「JAMA Network Open」に掲載された日本の学校での心停止に関する研究では、2008~2015年の症例232人を分析した結果、AEDパッドを装着された割合は女子63.2%、男子80.6%でした。高校・高等専門学校の症例に限ると、女子55.6%、男子83.2%という差が報告されています。
大阪市の院外心停止データを用い、2011~2018年の公共の場での症例を分析した研究でも、15~49歳ではAEDパッドの装着率が男性12.1%、女性5.2%と、女性のほうが低い結果でした。
こうした研究は、女性へのAED使用をためらう心理が救命処置の男女差に関係している可能性を示しています。ただし、これらの数値だけで男女差の原因すべてが服装への配慮や救助者の性別にあると断定することはできません。発生場所や年齢、心停止の状況など、複数の要因が関係します。
| 研究・論点 | 確認された事実 | 読み取れるポイント |
|---|---|---|
| 全国の院外心停止研究(2005~2020年) | 市民による除細動の割合は男性3.2%、女性1.5% | 女性がAEDによる除細動を受ける割合は低かった |
| 学校での心停止研究(2008~2015年) | AEDパッド装着率は女子63.2%、男子80.6% | 学校での救命処置にも男女差が報告された |
| 大阪市の公共の場での研究(2011~2018年) | 15~49歳の装着率は男性12.1%、女性5.2% | 若い年齢層の女性で差が確認された |
| ブラジャーの金具によるやけどという説 | 日本ファクトチェックセンターは2024年9月、やけどの可能性は極めて低いとする専門家の説明を紹介 | 金具への配慮は必要だが、それを理由にAEDを避けるべきではない |
ここで重要なのは、女性へのAED使用率が低いという結果を、女性へのAED使用が危険である証拠と取り違えないことです。むしろ、必要な処置が十分に行われていない可能性を示すデータとして捉える必要があります。
【服・ブラジャーの扱い】脱がせる必要はある?金具の誤解も検証
AEDを使用するとき、電極パッドは衣服や下着の上からではなく、胸の素肌に直接貼り付けます。ただし、そのために上半身の衣服をすべて脱がせたり、ブラジャーを完全に取り外したりする必要はありません。
総務省消防庁の防災危機管理eカレッジでは、女性に配慮したAEDの使用方法について、パッドを正しく貼ることを優先しながら、できる限り人目にさらさない配慮も大切だと案内しています。自治体が紹介する日本AED財団監修の案内でも、衣服や下着をずらしてパッドを貼る方法が示されています。
具体的には、服を必要な範囲だけ開き、ブラジャーのカップや肩ひもなどをずらして、パッドを貼る場所の皮膚を露出させます。パッドの粘着面と皮膚の間に布が挟まらないようにしてください。下着を着けたままでも、パッドが素肌に正しく貼られ、金属部分がパッドに触れないようにできれば対応できます。
ここで注意したいのが、ブラジャーのワイヤーや金具です。金属部分が電極パッドに触れないようにし、パッドを貼る位置に金具が重なる場合は、下着をずらして避けます。ネックレスなどのアクセサリーも、パッドに接触しないようにしてください。接触しないアクセサリーをすべて取り外すことに時間をかける必要はありません。
「ブラジャーを外さなければ、金具で重いやけどをする」という説にも注意が必要です。日本ファクトチェックセンターが2024年9月13日に公表した検証記事では、AEDの専門家の説明として、やけどの可能性は極めて低く、重篤なやけどにはならないと紹介されています。
もちろん、金属部分への注意が不要という意味ではありません。パッドを正しく貼り付けることは必須です。しかし、金具の存在を理由に、AEDの使用そのものを諦めるのは適切ではありません。
服を脱がせる必要があるのか迷ったら、「上半身を完全に脱がせる」のではなく、「パッドを貼る場所だけを素肌にする」と考えてください。衣服をずらす方法で対応できる場合は、その方法を優先し、救命処置を遅らせないようにしましょう。
【女性へのAEDパッドの正しい貼り方】プライバシーに配慮する方法
AEDの電極パッドは、一般的な成人用の配置では、1枚を右胸の鎖骨の下、もう1枚を左胸の外側、わきの下に近い位置に貼ります。機種ごとのパッドに描かれたイラストを確認し、音声ガイダンスに従ってください。
女性の場合も、パッドを貼る基本的な位置は男性と変わりません。胸の形やブラジャーの位置に合わせてパッドを貼る場所を変えるのではなく、皮膚に直接密着させられるように衣服や下着を調整します。パッドと皮膚の間に隙間ができないよう、しっかりと貼り付けることが大切です。
プライバシーを守るためにできることは、いくつもあります。
- 人垣をつくる:周囲にいる人に協力を頼み、倒れている人の周囲を囲んでもらいます。
- 衣服を必要な範囲だけずらす:胸全体を必要以上に露出させず、パッドを貼る場所を確保します。
- パッドを貼った後に肌を覆う:上着やタオル、三角巾などを使い、パッドの位置やコード、AEDの作動を妨げないようにしながら、露出している部分を隠します。
- 役割を分担する:救助者が一人で対応しなければならない状況でなければ、別の人に通報やAEDの手配、人垣づくりを頼みます。
プライバシーに配慮することと、救命を急ぐことは両立できます。日本心臓財団や消防庁の案内も、救命処置の実施と、必要に応じて人目を避ける配慮を両方重視しています。
ただし、肌を隠すことに集中して、パッドの貼り付けやAEDの操作を遅らせてはいけません。AEDが心電図を解析するときや電気ショックを行うときは、機器の指示に従い、傷病者に触れている人がいないことを確認します。周囲には「離れてください」とはっきり声をかけてください。
なお、胸が濡れている場合は、パッドを貼る場所とその周辺の水分を乾いた布などで拭き取ります。ペースメーカーなどの植込み機器による皮膚の盛り上がりがある場合は、その部分を避けてパッドを貼ります。こうした注意点も、性別にかかわらず必要な対応です。
【胸骨圧迫・119番通報・AED】女性が倒れていたときの救命手順
実際に女性が倒れている場面に遭遇したら、服装や性別を理由に判断を止めるのではなく、次の手順で対応します。総務省消防庁の応急手当WEB講習や日本心臓財団の案内に沿った、一般市民が行う基本的な救命処置です。
1.周囲の安全を確認する
交通や火災などの危険がないか確認してから近づきます。安全を確保できない場所では、救助者自身が危険にさらされないようにしてください。
2.反応を確認して助けを呼ぶ
肩を優しくたたきながら「大丈夫ですか」と呼びかけます。反応がなければ大きな声で周囲に助けを求め、具体的に「あなたは119番に通報してください」「あなたはAEDを持ってきてください」と依頼します。
3.119番通報と呼吸の確認を行う
救急車を要請し、胸やおなかの動きを見て、普段どおりの呼吸があるかを10秒以内で確認します。反応がなく、普段どおりの呼吸がない場合や、呼吸の判断に迷う場合は、心停止を疑って胸骨圧迫を開始します。しゃくり上げるような不規則な呼吸は、正常な呼吸とは限りません。
4.胸骨圧迫を開始する
倒れている人を仰向けにし、胸の真ん中、胸骨の下半分を手のひらの付け根で圧迫します。成人の場合、胸が約5cm沈む強さを目安に、1分間に100~120回のテンポで、絶え間なく圧迫してください。圧迫するたびに胸が元の位置に戻るようにし、できるだけ中断を避けます。
人工呼吸の訓練を受けており実施できる場合は、訓練に沿って行います。人工呼吸が難しい場合でも、胸骨圧迫をためらわずに続けてください。119番の通信指令員から指示がある場合は、その案内に従います。
5.AEDが到着したら、すぐに使用する
AEDの電源を入れ、音声ガイダンスに従います。衣服を必要な範囲だけずらし、電極パッドを素肌に直接貼ります。AEDが心電図を解析している間は傷病者に触れず、電気ショックの指示があった場合も、周囲の人が触れていないことを確認してから操作します。
ショックの後や、ショックが必要ないと判断された後も、AEDの音声指示に従って胸骨圧迫を再開します。救急隊が到着するまで、傷病者に明らかな反応が戻るなどの変化がない限り、救命処置を継続してください。
一人で対応している場合は、携帯電話のスピーカー機能などを使って119番に連絡し、通信指令員の指示を受ける方法もあります。近くに協力者がいれば、AEDの手配や人垣づくりを任せましょう。
ここで覚えておきたいのは、AEDを使うのに特別な資格は必要ないという点です。機種によって操作方法に違いはありますが、基本的には音声案内に従って使用できます。女性への使用だからといって、特別な医学的判断が求められるわけではありません。
【2026年最新情報】訴訟への不安と公的機関の案内をどう考えるか
「男性が女性にAEDを使うと訴えられる」という情報も、女性への救命処置をためらわせる要因の一つです。この問題について、日本ファクトチェックセンターは2025年2月20日、警察庁や弁護士への取材をもとに検証記事を公表しました。
同センターによると、警察庁は、女性へのAED使用を理由に男性が性被害などで訴えられた事例について「把握していない」と回答しました。また、取材した弁護士も、専門的な判例検索で同様の事例を確認できなかったと説明しています。
これは、どのような状況でも法的な問題が絶対に起きないと保証するものではありません。しかし、救命を目的として必要な処置を行うことと、救命から逸脱した行為は区別して考える必要があります。訴訟への不安だけを理由に、目の前の人への救命処置を避けるべきではありません。
2026年の救急蘇生に関する情報では、日本蘇生協議会(JRC)が監修する「JRC蘇生ガイドライン2025」の書籍版が、2026年7月13日に発刊されました。これは心肺蘇生や救急対応を扱うガイドラインです。女性に対してAEDを使わないよう求めるものではなく、実際の救命では消防庁の市民向け講習や機器の音声指示に沿って行動することが基本です。
また、日本心臓財団は、倒れた人に反応がなければ行動を開始し、胸骨圧迫とAEDの使用をためらわないよう案内しています。日本救急医療財団は、AEDの設置場所を調べるための「財団全国AEDマップ」を提供しています。日頃から近くのAEDの設置場所や利用できる時間帯を確認しておくことも、いざというときの備えになります。
現場で救助をためらわないためには、次のような準備が有効です。
- 消防署などが実施する救命講習で、胸骨圧迫とAEDの操作を体験しておく。
- 倒れた人を見つけたら、周囲に具体的な役割を頼む習慣を身につける。
- 女性へのAED使用でも、必要な範囲だけ衣服をずらし、人垣やタオルなどで肌を隠せることを知っておく。
- ブラジャーの金具や訴訟の噂を、AEDを使用しない理由にしない。
救命処置では、すべての不安がなくなるまで待つことはできません。必要な処置を始め、プライバシーへの配慮を並行して行うことが、実際の現場で求められる対応です。
【aed 女性助けないほうがいい】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:女性にAEDを使うとき、ブラジャーを脱がせる必要がありますか?
A1:必ずしも必要ありません。電極パッドを素肌に直接貼れるよう、衣服や下着を必要な範囲だけずらします。金具がパッドに触れないようにし、正しい位置にパッドを貼ってください。
Q2:男性が女性にAEDを使うと、訴えられる可能性がありますか?
A2:法的なトラブルが絶対に起きないと保証することはできませんが、救命目的の行為と、救命から逸脱した行為は区別されます。日本ファクトチェックセンターの2025年の検証では、警察庁は該当事例を把握していないと回答しています。訴訟への不安だけを理由に、必要な救命処置を避けるべきではありません。
Q3:女性の胸を完全に露出させないとAEDは使えませんか?
A3:胸全体を完全に露出させる必要はありません。パッドを貼る部分の皮膚を露出させ、電極パッドを素肌に密着させることが必要です。パッドの位置や機器の作動を妨げないようにしながら、上着やタオルなどで露出部分を隠すこともできます。
「AEDで女性を助けないほうがいい」という考えは、救命の基本に沿ったものではありません。日本の研究では女性が市民によるAEDの除細動を受ける割合が低いという男女差が報告されており、救命処置をためらう問題は軽視できません。
一方で、女性のプライバシーを守るためにできることはあります。衣服を必要な範囲だけずらし、ブラジャーの金具がパッドに触れないように調整し、パッドを貼った後は人垣やタオルなどで肌を隠す。こうした対応を、胸骨圧迫やAEDの使用を遅らせずに進めることが大切です。
目の前で人が倒れたときに必要なのは、救助者の性別を問わず、反応と呼吸を確認し、119番通報とAEDの手配を行い、必要に応じて胸骨圧迫を開始することです。AEDの音声指示に従い、救急隊が到着するまで救命処置を続けてください。
救命とプライバシー保護は、どちらか一方を選ぶ問題ではありません。正しい知識を身につけ、できる配慮をしながら、必要なときにためらわず行動すること。それが、女性にも男性にも、助かる可能性をつなぐ対応です。